婚約破棄された社交苦手令嬢は陽キャ辺境伯様に愛される〜鏡の中の公爵令嬢〜
その時、不意に彼は違和感を覚えた。
視界に見覚えもないものが飛び込んで来たのだ。
「本……?」
ベッドサイドにあるチェストの上に、一冊の本が置かれてあったのだ。
それは、隣国の言葉で書かれたハーブについての書物だった。ところどころメモ用紙がはみ出ている。
ドクンと一つ、胸が大きく打つ。
彼は不思議と緊張感を覚えながら、おそるおそるそれを手に取った。
その時、ページの間からはらりと一通の手紙が落ちた。
「これは……母上の筆跡?」
慌てて封を開ける。そこには、母の字で『デニスは読まないように』と書かれていた。
彼は狼狽しながら封筒にしまう。幼い自分がいたずらをした時に叱る母親の顔が頭に浮かんで、恐ろしくなったのだ。
それにしても、なぜ自分の知らない母親の手紙がここにあるのだろうと首を傾げていると、
「っ……!」
次の瞬間、彼の中に卒然とあの名が思い浮かんだ。
愛しい人の、あの愛称が。
「マーガレット嬢…………マギーが来る!」