天使のはしご

曇り

僕は、思わず手紙を床に落としてしまった。
一人暮らしの僕の家にとどいた一通の手紙。その差し出し人は、、、桜井ひなた。
「ありえない、、、だってひなたは、、、。」
ひなたは4年前に亡くなっているはずだ。手紙なんか出せるはずがない。誰がこんな悪戯を。僕が手紙を捨てようと思い玄関に入ろうとすると携帯が突然鳴った。
「涼太!あんた元気にしとるん?全く連絡もよこさんと。たまには帰ってきなさい!」
母の怒鳴り声のような声が頭にに響く。
東京にきてから、関西弁の混じった地元の方言を聞くことはなかったので、口調も強めだと感じてしまう。
「母さん。俺はもう大学生やで。心配せんでも元気にしとる。今は大学が忙しいくて帰られへん。」
近所の人の迷惑にならないようにと、小声で話しながら部屋に入った。
「毎年そう言って帰ってこんやん。そんなにこっちに帰りたくないんか?」
図星をつかれ、何も言えなる。実家に帰りたくないわけではない。実家ではなく地元に帰りたくないのだ。ひなたの自殺があったから。

僕はひなたと仲が良かった。ひなただけではなく、はるき、奏美ともそうだった。この4人は幼馴染で、何をするにも一緒にいる感じで仲が良かった。喧嘩なんかしたことはない。
 
 ひなたが亡くなったのは高校2年の春。いつものように教室に入ると突然はるきが、
「ひなたが自殺したかもしれへん。」
と言い放った。状況を飲み込めない僕が立ち尽くしていると、うつむいて泣いていた奏美が話し始めた。
「朝、ひなたといつも待ち合わせてる場所に行ったの。でも、いつまでたってもひなたがこなくて。きっと寝坊したんやと思ってたんだけど、、、。」
奏美は泣いていたのもあり、そこまでしか話せなかった。ここからは、はるきから聞いたのだが、奏美が待ちくたびれて先に学校にいくと、驚いたことにひなたの両親が学校にきていたそうだ。母親は顔面蒼白、目は腫れあがり、目に光のかけらも見えなかった。奏美はひなたの両親に何が合ったのかを聞くと父親が消えそうな声で
「飛び降りたんや。2階の窓から。救急車呼んだけど、間に合わんかった。」
と言ったそうだ。その日以降、警察による聞き取り調査が始まった、、、が手がかりは見つからなかった。遺書などは見つからず、なぜひなたが自殺したのかはわからないままだった。ひなたの自殺のショックで奏美は学校を休みがちになり、進級に必要な出席日数が足りなくなり、自主退学した。はるきとは卒業までは話したりしていたが、大学生になって疎遠になってしまった。

 ひなたは、いつも僕たちを照らしていた。だからひなたがいなくなって3人の心に影ができた。その影が大きくなり、見えない暗闇の中で僕たちは離れてしまった。僕たちは今もその暗闇の中にいる。抜け出せず、ずっと。

「あのな、奏美ちゃんとはるき君が帰ってきてんねんけど、ひなたちゃんから手紙が来たって言ってるらしいねん。なんか知らんか?」
母の突然の言葉に手紙を捨てようとした手が止まった。
「おかしいよな?ひなたちゃんは亡くなってるのに。でも二人とも涼太にも届いてるんちゃうかって。どうなん?」
「、、、届いてる。」
「えっ?!」
「母さん。来週の日曜に帰る。二人にも伝えといて。」
そういうと、僕は電話を切った。
今、僕はどういう感情だかわからない。ただ、もしこれが本当にひなたの仕業なら、、、。
ありえないが、そうであって欲しかった。
ひなたがいれば、また4人で集まれば、、、戻れるかもしれないと思ったから。
“楽しかったあの頃“に戻れるかもしれないと、、、。
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