夜這いを命じられたら、国王陛下に愛されました

新王セウリス・ガキア 8

13.



「――セウリス!‥‥ッ!」

 気付いたオリヴェロが刺客に切迫しようとするが、ダンダンッと飛び道具が足元に刺さり、近づけられない

「オリヴェロっ‥‥」
「‥‥チッ、これだから暗殺者はねちっこくて嫌いなんだ」
「はっ、お褒めにあずかり光栄だね」
「褒めてねぇよっ」
「ちょッ‥‥!」

 イラっとこめかみを引きつらせたオリヴェロがセウリスに加勢しようとするが、如何せんセウリスが持つ武器は武器足りえない脆弱な飾りの剣。刺客に簡単にそらされ、挙句の果てには重心が動きオリヴェロに斬られるところだった

「あ、っぶなー‥‥。セウリス邪魔!鈍ってんじゃないの!?」
「うるせぇ!なら、お前が変わってくれるって言うのか?」
「‥‥‥」
「‥‥‥」

 敵が目の前にいるというのに喧嘩をし始める二人に刺客は思わず動きを止める。しかも、冷戦状態だ

「‥‥‥‥おい、お前ら、舐めてんのか?」
「んなわけないでしょ。‥‥ほらっ」
「‥‥‥助かる」

 斬りかかってきた刺客を避け、オリヴェロが胸元から短剣を取り出し、今まで持っていた剣を投げる。鞘も何もしていない抜き身の状態だが、セウリスは危なげなくキャッチした

「クソっ!」
「ほらほら、おとなしくお縄につきなって」
「そうだな。大人しく捕まった方が身のためだ」
「うるせえっ!大人しく捕まったってどうせ死刑だろうがっ」

 それはそう
 そんな顔でセウリスとオリヴェロは頷いた

「‥‥‥俺らはなぁ、こんなところで簡単におっちんで良いわけねえんだよ」
「知るかよ」

 吐き捨てるようにオリヴェロは言った
 セウリスはいやに饒舌な刺客に眉をひそめた

「おらよっ!」
「ッ‥‥!」
「煙幕か‥‥!」

 思った通りか否か、刺客はこぶし大の球のようなものを打ち付けて周囲を白いもので覆った
 「陛下!」と遠く、エイベルの声が聞こえる。なにか薬でも含まれているのだろうか。咄嗟に口元を覆うと、至近距離で気配

「‥‥‥!」
「――ッ!‥‥‥‥ぐッ」

 風圧で辺りが晴れる
 大きく避けたことで倒れそうになった体を持ち直して、なぜか躊躇うように動きが止まった刺客を取り押さえる

「エイベル!窓を開けろ!!」
「は、はい‥‥ッ!」
「オリヴェロ! 大丈夫か」
「‥‥ゔー、‥‥だいじょーぶー」

 よろよろと口元を抑え、ベッドに手を置くオリヴェロ。どうやら少し吸い込んだよう

「なんでセウリスは平気なのさー」
「王族だからな」
「あっそ‥‥‥‥あれ?女の子‥‥?」

 なんでもないように涼しい顔で言ったセウリスにオリヴェロは軽く顔を顰め、あることに気が付く

「え!?ってか裸!裸同然なんですけど!」
「お、おいっ!」
「うっわ、めっちゃ綺麗な子。すんごく寝てるけど。‥‥やけに指示くんの遅かったけど、もしかして陛下ってロリコン‥‥?寝てたら見ちゃうのはわかるけど」
「違うわ!」
「――どうしました?」

 オリヴェロの声にあッと女の存在をすっかり忘れていたセウリスはへばりつくように女の姿を見ようとするオリヴェロを留めようと、動き、そんな中をクレトが近衛騎士団長を連れて入ってきた。カオスの予感

「‥‥陛下、ご無事なようで」
「あ、あぁ‥‥」
「後日、改めて献言に参ります」
「‥‥‥わかった」
「あ、クレトー。陛下がねー‥うェッ「オリヴェロ、お前一回黙れ。クレト、俺はロリコンではない。断じて。指示を出すのが遅かったのは、‥‥‥その、事情があってだな‥‥‥」
「私は何も言ってませんよ?陛下」

 首を絞めにかかっているセウリスと落ちそうなオリヴェロを綺麗に無視をして、綺麗に微笑んだクレトは寝台へ視線を移す

「――この少女は?
 随分とまぁ‥‥健やかに眠っているようですが」
「‥‥‥おそらくこの少女が夜這い役の女だ。俺が来た時には既に眠っていた」
「そうですか。こんなにも熟睡な様子だとはいえ、戦闘中に放置は無かったでしょうけど――」
「「‥‥‥」」
「陛下、オリヴェロ。まさか?」

 無言の二人にクレトははぁと容赦のないため息を吐いた

「この少女が油断させて飛び掛かってきたらどうするつもりだったんです?この少女が戦闘中のごたごたにまぎれて逃げたらどうしたんです?
 まぁ‥‥明らかに眠っていることがわかりますから、今回の事は深く言いませんけど、あなた方は本当に昔から楽観的な性格が抜けませんねぇ。成長してないんですか?‥‥まったく」
「「‥‥おっしゃる通りで」」

 淡々としたクレトの追及に二人は従順そうに、けれど顔は心底嫌そうなげっそりとした仏頂面で頷いた


「――それで、この少女は‥‥」
「あぁ」

 流石に状況が状況なので早々に説教を終え、クレトは緩慢な仕草でゆるく腕を組んだ
 騎士たちが呆れ顔で見ているというのに、場所を考えないのは変わらないなとため息を吐くように答えたセウリス。ちらっと少女に視線を移すと、天井から黒が降ってきた

「うわっ」
「陛下、御前失礼いたします」
「アッシュか。許す」
「ありがとうございます。‥エイベル殿、一人残っておりました」
「うげッ、最悪。盗られた‥‥」
「あッ、ありがとうございます‥‥‥?」

 ずるずると片手に意識を失った状態の人型を引きずった黒にエイベルはひくりと頬を引きつらせながら、語尾を上げ気味に受け取り、縛って連行した

「あぁ、もう一人いたのか。助かった」
「とんでもございません」

 頭を下げる黒にセウリスはちょうどいいと視線を鋭くさせる

「アッシュ、お前、この女についてなにか覚えがあっただろう」
「‥‥‥」
「怒らんから言ってみろ」

 肉食獣のような歪な笑みを浮かべたセウリスに絶対、嘘だぁと空気を読まないオリヴェロの声が入る。が、すぐにクレトの手にふさがれた。アッシュは数秒沈黙し、ようやく答えた

「‥‥この少女は、‥‥いえ、この方はリオン・アナスタシア・スペンドール。十数年前、羽中周辺国(シュウ)からスペンドール侯爵家に嫁いでこられた王女の血を引くお方です」

 その言葉に、セウリスとクレトはやっぱりかーというように無言で宙を仰ぎ、目の前を覆った
 うん。うん?とオリヴェロだけが蚊帳の外であった


 
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