夜這いを命じられたら、国王陛下に愛されました

侯爵令嬢リオン・アナスタシア 4

4.




「‥‥‥ひま」

 ポツンと独り、リオンはきらびやかな装飾に彩られた部屋で佇んでいた
 あえて開口一番に語らなかったが、現在地は新王の居室である。しかも寝室の方

「はぁ」

 手持ち無沙汰だ


 公爵に呼び出され、悪事の企みを不本意にも聞かされたあれからというのも、あれよあれよという間にジュリアと引き離され(さして近くに居たわけではない)、執事長(ジーンとやら)に連れられ、別の部屋へ移動――話の途中で私兵と知らない侍女が現れ半ば引きずられていた。そして、別に引っ張らなくても逃げないのにと不満顔だったからか、部屋に入った途端に侍女に服をはぎ取られ、湯殿にドボン。目を白黒させている間に身体を丸々洗われ、流石に抵抗した。見られたからじゃない、ジュリアじゃなかったからだ。よく知らない人に意味もなく身体を洗われるのはキライだ。湯につかるのもキライだ
 そして、早々に湯船から引き揚げられ、今度はマッサージ。よくわからない香油やらなんやらを塗り煉りたくられて、つやつやのもちもちに‥‥。正直に言うと、香油はなんだか体に悪そうでキライなのでやめてほしかった。言わなかったのはひとえに言わない方がよさそうだなーとなんとなく空気感を呼んだのと、結構必死な形相で頑張ってたからだ。なにがなんだかよくわからないけど
 体がスッキリ洗われてもちもちになったところで、お次は化粧とささっと水分補給をさせられてから小一時間鏡の前で座らされた。最初の三十分はなにやらあれがいいこれがいいと議論され、そして最後の三十分はひたすら指示に従って目を閉じ、首が凝りそうな姿勢で固まった。辛かった。眠かった。切実にジュリアに助けてほしかった
 侍女たちが化粧を終え、ここまで来てようやく夜会にでも連れていかれるんだろうかと頭が回り始めたが、直ぐにいつのまにか置かれていたもの凄く薄い夜着を前に吟味し始めのでその考えはすぐにお亡くなりになった。そもそもこの年までデビュタントすらしていないので、今更もなかった。流石にこんな決定的な(ブツ)を出されると鈍いリオンでも「あー、そういうこと」と気付かざるを得なかった。成程。それはそうとしてやり方など知らないし、やる気もない。どうするつもりなのだろうか、我が父上様(侯爵)

 常識だが、夜這いが見つかり、不敬だと思われたら大抵その場で斬首だ。遠回しに侯爵は私に死ねと言っているのだろうか

 考えが頭をよぎったが、そんなのも今更だった
 取り敢えず、侯爵はその場の状況と希望的観測だけで物事を進めようとする楽天家だと烙印を押し、出来れば痛くない死に方‥‥上手く首を落としてくれると良いなと思いながらレースが美しい水色の夜着を着付けられる。寒い。鳥肌が立つから羽織るもの欲しい‥‥と思っていたらすっとショールを渡された

「‥‥‥」

 それだけ?と思った私は決して悪くない


「――ふむ、いいですね。これで行きましょう」

 と、施術(と名付けることにする)を終え、あの薄い夜着を着せられた後に入ってきた執事長にじろじろと不躾に見定められた後の言葉がこれ。‥‥あなたが決める事なの?まぁ、決めたのは侍女たちであるし、それにOKを出したのは男性目線ならではという事なのだろうか

 色々してくれた侍女たちに見送られ選手交代して今度は男一色となった集団に囲まれながら裏口から出て馬車で出発。彼女たちは最後まで私の前では無言無表情だった。見送られても特に感慨は湧かなかった。強いて気になることがあるとすれば、「数時間後に殺される女の死に化粧を仕立てた感想は?」である
 時折、薄着の私へ送られる不躾な視線は気付かないふりをして馬車に揺られる。思えば馬車に乗るのは‥‥‥たぶん、初めて。こんな死への道でなければなにか思うこともあっただろうに‥‥と、ひとまず自分を憐れむ。それぐらいの権利はあるはずだ。たぶん
< 4 / 14 >

この作品をシェア

pagetop