夜這いを命じられたら、国王陛下に愛されました
侯爵令嬢リオン・アナスタシア 5
5.
「入れてくれ」
長い時間をかけてようやくたどり着いた新王の居室らしき赤茶の扉の前。先導していた執事長がその扉の前に立っていた衛兵二人に何か包みのようなものを渡す。いわずもがな、金目のものだろう
「どうぞどうぞ」
「‥‥‥」
一人は満足そうに。もう一人は「入れ」と扉の方へ顎をしゃくるジェスチャー
私兵とはここで別れるのかと思ったが、どうやら違ったらしい。堂々と侵入者であるはずなのに、集団でこの国の最高権力者の部屋に這入る。そして迷いなく執事長は右奥の扉を開き、私に入るよう促した。数人の私兵も続き、何故か次々と消えていった。天井にでも隠れたのだろうか。まさか、最後まで見張っているつもりなのか?だとしたら、実力に見合わない集団を雇ってるなぁ
「お嬢様、こちらへ」
どでんと鎮座する西洋風のベッドの前に立った私を見て満足そうに一度頷く
「国王が現れたら、その夜着は自分でお脱ぎください。その後はまぁ、国王に任せればいいでしょう」
「?」
「大丈夫ですよ。簡単に脱げますから」
そういうことじゃない
言いたいことは「じゃあ、なぜこれを着せた?」とか、「そもそも本当に執事?失礼すぎる‥」とか色々あるが、それはもう今更なので口には出さない。前文の通り、全てはもう“今更”だ。あの侯爵のもとに生まれた時点で今更だし、拒否しなかった時点で今更。‥‥いや、拒否できると思うのか?とりあえず、一秒でも短く痛みを感じなかったら万々歳。もはやそれが私の死生観となりつつある。悲し‥‥くはない
「ご安心ください
国王は執務が終わるまでこの部屋に帰ってくることはありません。その他も近づかないようにしてありますから。スペンドールの兵も付いております。お嬢様に置かれましては、ご自分の責務を全うなされますよう」
「‥‥‥はあ」
責務ってなあにー
そんな責務背負った覚えはないのだけど。この人もこの人で、私の周りは狂った人間ばかりだなと再確認。どうしてこんな、金にものを言わせた計画なんてあったものじゃない計画が成功するとか思ってるんだろう。‥‥いや、計画してたのかもしれないけれど。そもそも今の所、新王が馬鹿だとか阿呆だとか暗君だとか暴君だとか聞いた覚えはないからそんな侮り全開の姿勢はやめた方が良いと思うのだけど。新王が即位したという話すら知らなかったではないかというツッコミはとりあえず置いておいてほしい
「では、私はこれで」
言いたいことを言い終えたのか、にっこり笑って執事長は早々に去った。私は特に言いたいことは無かったので無言での見送りである。侍女集団と一緒
そうして現在に戻る
さて、諸々の侯爵の企みの前準備は整った訳だが、これはこれで暇。すごく暇。やることがない。この状態で侯爵の私兵も待機って大変だなぁと他人事のように憐れむ。どうせ共倒れなんだから、降りてきて。一緒に話そうよーと誘拐犯じゃなければ誘っていた。それほどまでに暇
‥‥あぁ、侯爵と言えばジュリアだ。ジュリア。あの子は今どうしているだろうか。元気に仕事に戻っているだろうか。どうしよう。私が死んだらあの子は一人ぼっち‥‥‥そんなわけないか。普通に仕事仲間の同僚がいる。本当にごめん。私が鈍すぎたせいで私はあと数時間でお亡くなりになることでしょう。できたら、遺品として離のベンチは残しておいてほしいです。後で幽霊となってそこに憑くから
「‥‥‥ふあ~‥‥‥」
いつの間にか伸びてきた赤い夕陽のかげにあくびをする
「あったかい‥‥‥」
ポスンッ
カーテンが下ろされ、冷え切っていた寝室の内一つを開けといてよかったとベッドに寝転がりながら思う。日当たりが悪い所は好きじゃないのだ。空気が陰気な所も
こんなに明るくなって温かくなるのならもう一つぐらい纏めようかと考えるが、暗くなってきたら寝る健康的な生活習慣と成れない化粧や移動の疲れでうとうととリオンの瞼は下がり始めていた。ごろんと薄い夜着のまま無造作に寝転がるリオンの姿は完全に寝ると決めた時のものであり、それにこれは国王の寝台であるとか、夜這いとか、殺されるまであとうんぬんとかそういうのは関係ない。あくまで楽観的に、「あと数時間は来ないって言ってたし、たぶんあの人たちが起こしてくれる。たぶん」という無頓着なリオン本来の考えである
「ㇲーㇲー」
すこんと僅か数十秒で眠りに落ちたリオンは無意識にシーツを手繰り寄せ、日が落ち、冷えてくる空気に対して備え、更に深い眠りに落ちていく
「「(うっそだろ、オイ‥‥‥)」」
天井で見守っている(?)存在達のことはすっかり無視をして――
「入れてくれ」
長い時間をかけてようやくたどり着いた新王の居室らしき赤茶の扉の前。先導していた執事長がその扉の前に立っていた衛兵二人に何か包みのようなものを渡す。いわずもがな、金目のものだろう
「どうぞどうぞ」
「‥‥‥」
一人は満足そうに。もう一人は「入れ」と扉の方へ顎をしゃくるジェスチャー
私兵とはここで別れるのかと思ったが、どうやら違ったらしい。堂々と侵入者であるはずなのに、集団でこの国の最高権力者の部屋に這入る。そして迷いなく執事長は右奥の扉を開き、私に入るよう促した。数人の私兵も続き、何故か次々と消えていった。天井にでも隠れたのだろうか。まさか、最後まで見張っているつもりなのか?だとしたら、実力に見合わない集団を雇ってるなぁ
「お嬢様、こちらへ」
どでんと鎮座する西洋風のベッドの前に立った私を見て満足そうに一度頷く
「国王が現れたら、その夜着は自分でお脱ぎください。その後はまぁ、国王に任せればいいでしょう」
「?」
「大丈夫ですよ。簡単に脱げますから」
そういうことじゃない
言いたいことは「じゃあ、なぜこれを着せた?」とか、「そもそも本当に執事?失礼すぎる‥」とか色々あるが、それはもう今更なので口には出さない。前文の通り、全てはもう“今更”だ。あの侯爵のもとに生まれた時点で今更だし、拒否しなかった時点で今更。‥‥いや、拒否できると思うのか?とりあえず、一秒でも短く痛みを感じなかったら万々歳。もはやそれが私の死生観となりつつある。悲し‥‥くはない
「ご安心ください
国王は執務が終わるまでこの部屋に帰ってくることはありません。その他も近づかないようにしてありますから。スペンドールの兵も付いております。お嬢様に置かれましては、ご自分の責務を全うなされますよう」
「‥‥‥はあ」
責務ってなあにー
そんな責務背負った覚えはないのだけど。この人もこの人で、私の周りは狂った人間ばかりだなと再確認。どうしてこんな、金にものを言わせた計画なんてあったものじゃない計画が成功するとか思ってるんだろう。‥‥いや、計画してたのかもしれないけれど。そもそも今の所、新王が馬鹿だとか阿呆だとか暗君だとか暴君だとか聞いた覚えはないからそんな侮り全開の姿勢はやめた方が良いと思うのだけど。新王が即位したという話すら知らなかったではないかというツッコミはとりあえず置いておいてほしい
「では、私はこれで」
言いたいことを言い終えたのか、にっこり笑って執事長は早々に去った。私は特に言いたいことは無かったので無言での見送りである。侍女集団と一緒
そうして現在に戻る
さて、諸々の侯爵の企みの前準備は整った訳だが、これはこれで暇。すごく暇。やることがない。この状態で侯爵の私兵も待機って大変だなぁと他人事のように憐れむ。どうせ共倒れなんだから、降りてきて。一緒に話そうよーと誘拐犯じゃなければ誘っていた。それほどまでに暇
‥‥あぁ、侯爵と言えばジュリアだ。ジュリア。あの子は今どうしているだろうか。元気に仕事に戻っているだろうか。どうしよう。私が死んだらあの子は一人ぼっち‥‥‥そんなわけないか。普通に仕事仲間の同僚がいる。本当にごめん。私が鈍すぎたせいで私はあと数時間でお亡くなりになることでしょう。できたら、遺品として離のベンチは残しておいてほしいです。後で幽霊となってそこに憑くから
「‥‥‥ふあ~‥‥‥」
いつの間にか伸びてきた赤い夕陽のかげにあくびをする
「あったかい‥‥‥」
ポスンッ
カーテンが下ろされ、冷え切っていた寝室の内一つを開けといてよかったとベッドに寝転がりながら思う。日当たりが悪い所は好きじゃないのだ。空気が陰気な所も
こんなに明るくなって温かくなるのならもう一つぐらい纏めようかと考えるが、暗くなってきたら寝る健康的な生活習慣と成れない化粧や移動の疲れでうとうととリオンの瞼は下がり始めていた。ごろんと薄い夜着のまま無造作に寝転がるリオンの姿は完全に寝ると決めた時のものであり、それにこれは国王の寝台であるとか、夜這いとか、殺されるまであとうんぬんとかそういうのは関係ない。あくまで楽観的に、「あと数時間は来ないって言ってたし、たぶんあの人たちが起こしてくれる。たぶん」という無頓着なリオン本来の考えである
「ㇲーㇲー」
すこんと僅か数十秒で眠りに落ちたリオンは無意識にシーツを手繰り寄せ、日が落ち、冷えてくる空気に対して備え、更に深い眠りに落ちていく
「「(うっそだろ、オイ‥‥‥)」」
天井で見守っている(?)存在達のことはすっかり無視をして――