夜這いを命じられたら、国王陛下に愛されました

新王セウリス・ガキア 2

7.



「なんなんだ。どうしてこう‥‥‥新王という立場は厄介なんだ‥‥‥‥」

 たっぷりと実感が込められた声で机に身を投げ出したセウリスは言う

『初っ端から王生ハードモードだよ☆』

 とか遺した前王()はよく言ったものである。とりあえず死ね(※注 既に亡くなっています)

「あー、はいはい、そうだね。頭大丈夫?」
「問題ない。‥待て、それはどっちの意味だ?」
「どっちも」
仕方ない(今更)ですよ。それがもう、この国の宿命と云うか、呪いですから」
「‥‥クレト、変われ」
「嫌です」
「せっかくここまで来たんだから、頑張りましょーよ。陛下」
「断る
 ‥‥帝国は国境が騒がしくなったと思ったら、軍事演習(仮)をし出すし、四日前は国の貴族が娘を差し出してくるし――」

 ここでの「娘を差し出してくる」は夜這いを仕掛けてきたということである

「えぇ、本当に。何時の時代でも愚かな貴族という者はいるもんですねぇ」
「俺もビックリした」
「やはり陛下の美貌は更に新王という立場の悪さを加速させますか」
「だねぇ」
「俺の顔に文句を言うのはやめろ。俺だって好まん」
「じゃ、焼きます?」
「隠します?」
「‥‥‥」

 冗談を言ったようには見えない顔となぜかキラキラと期待するような顔をする部下に挟まれたセウリスはそこまでは言ってないと顔を顰めた

「ちぇッ‥‥」
「こら、オリヴェロ。残念なのは私も一緒です」
「お前らなぁ‥‥
 まぁ、いつかは役に立つだろ」
「‥‥‥陛下、それ」
「なんかそれ、いつか使ういつか使うって結局使わないモノに言うよく言う言葉と同じじゃない?」
「‥‥‥」

 どうでもいいことに突っかかって呑気に会話する己の部下にはぁと超絶重いため息を一つ。知らない内に同情的な視線が向いた

「‥‥戦場に戻りたい」

 ぎしっとクッションが少ない執務椅子を行儀悪く傾けて一言

「――陛下、手が止まってます」
「‥‥‥あぁ」
「戦場に戻りたいって、貴方、戦働きを生業にしてきたわけでもあるまいし」
「似たようなものだろう」
「そーそー。俺もまた自由気ままな生活に戻りたいなー」
「‥‥‥オリヴェロ、お前だけ逃げるのは許さんぞ」

 途端に鋭い視線を部下に向けたセウリス

「おー、こわ。冗談だって、へいかー」
「冗談でも許さん」
「わかってますよぉ」

 ぱちぱちと静かに見つめ合うセウリスとオリヴェロ。会話の内容は至って単純だと言うのに空気がひりついている。思わず、ごくりと周囲のものが唾を呑んだ

「はい、そこまでですよ。陛下、オリヴェロ
 皆さんが震えあがっています。そう簡単に殺気など出さないように。オリヴェロ、あなたは気が緩みすぎです」
「はーい。じゃ、緩んだ気を締めるために訓練場でも行ってきますかー」
「オリッ――「はいはい。好きに行きなさい。そこの山を綺麗に片づけたら、ですけどね」‥‥‥」

 悪戯気に輝いていたオリヴェロの瞳が途端にうへぇと目の前に積み上げられた書類の山を見て沈む。部下の扱いは新人の王ではなく、竹馬の友であるクレトの方が上だった。素直に落ち込み、セウリスの手は震えた

「陛下もそう簡単にオリヴェロの茶々に気を取られない様に。慣れない執務で苛々しているのは分りますが、陛下の事です。後数日もすれば慣れるでしょうから、それまでの辛抱です」
「‥‥‥慣れる前提か」
「当たり前です。貴方はもう「王」なのですよ」
「――わかっている」

 ここ数日、能面になり、かと思えば突然奇行を始めたり、はたまた無情にも寝室に侵入した令嬢の首を切り落とすなど何かと情緒が不安定だったセウリスをいとも簡単に宥めたクレトに尊敬の視線が向く。王よりも尊敬される側近とはどうなのか
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