愛おしき者
「もう、別れよう…」

男に呼び出された喫茶店の一角で、テーブルを挟んで座っている男が告げる

「…」

その言葉に、別にショックも受けていない

もともと、好きとか嫌いとか…そういった感情があって付き合った訳ではない

ただ、男から言い寄ってきたから、そうなった…それだけの関係…

「そう…」

私は一言、了解の意味を込めて告げ、運ばれてきたばかりのコーヒーを口に運んだ

「それだけか?」

コーヒーに映った、天井から吊された照明を見ていると、男が聞いてきた

「えっ?」

私は、視線を男の顔に移動させると、もう一度男は聞いてくる…

「それだけか?」

男は、私の目をジッと見つめ、何かを問いただしているようだった

「何が?」

私は、男の顔を見つめたまま、首を傾げた

「それだけなのか…?自分が、今何を言われていたのか、ちゃんと分かっているのか?」

男は、テーブルに視線を移して言った
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