愛おしき者
休みながら歩いた為、いつもより時間がかかった

(早く、荷物を置きたい…)

その気持ちが先走り、自分の部屋の扉しか見えていなかった…

(あともう少し…)

最後の力を振り絞り、階段に足をかけたその時…

トントン…

私の肩を叩く感触に、慌てて後ろを振り返ると、そこには階段の蛍光灯の明かりに照らされた、いつかの合コンで会った男が、相変わらずニコニコと微笑みながら立っていた…

「こんばんは」

男は、微笑んだまま声をかけてくる

私は、予想もしなかった人物の登場に上手く頭が動かず、その場に呆然と立ち尽くした…

「なんで…あなたが…」

やっと絞り出した声は、かすれて自分の声ではない様な気がする…

男は、ニコニコと微笑んだまま…

「また君に会いたかったから、友達に頼んで、君のお友達に聞いてもらったんだ」

「僕の友達と、よく連絡取ってるみたいだったからねっ」

と答え、私から荷物を取ると、階段を上がり始めた
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