ワインとチーズとバレエと教授
化粧はしているが、
くちびるがカサカサで、
目は落ちくぼんでいた。
首には無数の引っ掻きキズがあり、
手にも噛んだ後があった。
亮二から
「理緒がおかしくなっている、部屋がめちゃくちゃになり包丁を振り回した。明日、病院に連れて行く」
と、メールが来ていたが、誠一郎にとって、それは
「想定内」であった。
亮二には、
「想定内です、それも含め今後、治療します」
と、簡素なメールを返信しておいた。
でも、それを理緒にいちいち、言う必要はないと思った。
誠一郎はいつも通り
「一ヶ月間、どうでしたか?」
と、理緒に淡々と聞いた。
「全部、お休みしました…」
誠一郎はその言葉を聞いて驚いた。
全部、お休み…?
「全部とは…バレエもピアノもお仕事もですか…?」
「…はい…」
理緒の声は小さく、今にも消えそうだった。
まさか、本当に全部休むとは思っていなかった。
と言うか、すぐには出来ないと思った。
だいたいの患者は、一ヶ月間で止めることはない。
いろんな言い訳をつけて
「だって仕事が…」
「だって飲みに誘われて…」
「だって残業が…」
「私が家事をやらないと誰がやるの…」
「せっかくここまでやったのに…」
など最初は言う。
何年もかかって、やめる人もいる。
もちろん、アルコールも、薬物も、ギャンブルも
ワーカーホリックも、全て依存症なため、何年たっても、やめれない人もいる。