ワインとチーズとバレエと教授
「…正直、驚きました。私はてっきり、手を出していると思ってました」
「………」
理緒はただ、黙ったままだった。
それは、壮絶にツラかっただろう。
彼女は、自ら逃げ道を全て断ったのだからー
「…よく、やめれましたね…
どうして、やめようと
思ったのですか?」
誠一郎は聞きたくなった。
その意志の強さは、どこから生まれたのだろうと…。
「……ここでやめないと…」
「ここでやめないと?」
誠一郎は促した。
「…ここでやめないと、もとの生活に戻れないので…大学病院にまで来てしまい……結果を出さないとと思って…」
責任感からか?ー
「やめている最中、どうでしたか…?」
聞かなくても分かるー
首の引っ掻き傷や手には噛んだあとがある。
ツラかっただろう。
「……苦しかったです…夜中は、寝れなくて…
冷や汗が出て…こんなに止めるのが
つらいならピアノをひこうか、バレエに行こうか…
仕事をしようか…そう思いましたが…でも…ここで行ったら、 今までの休んだ分を取り戻そうと、もっと頑張りそうで…
そして、また骨折したら…また異型狭心症が出たら…先生の治療も無駄になってしまうから…
水を飲んで、ひたすら、堪えた感じで…
まるで、違法な薬物をやっているみたいな…
禁断症状みたいなものが出て…もちろん、そんな薬は飲んだことはありませんが、薬をやめるって、
こんな感じなのかな…と…」
理緒はうつむきながら話した。