ワインとチーズとバレエと教授
「その通りです」
誠一郎は一呼吸、置いて話した。
「あなたのやっていたことは、
バレエでもピアノでも仕事でも、
脳内では麻薬を打っている状態と同じ依存性です。
嫌な記憶を忘れたくて、何かに没頭することで
不快な記憶から逃避してきました。自分の身体を痛めつけてまでー」
沈黙が続いた。理緒は納得しているらしい。
「これからあなたは、どうしていきたいですか?」
「……誰かに愛されてみたいです…」
理緒は消えそうな声で言った。
誰かに愛されてみたいー
誠一郎は、無意識にカリッと左手の甲を掻いた。
理緒はそれを見逃さなかったー
まぁ…彼女なら当然そう思うだろうと
誠一郎は思った。
それが彼女の中にある本音で、
バレエやピアノをやりたいわけではないと、ようやく気づいたようだ。
それでも、誠一郎は
「私はあなたが、また何かのキッカケで、いつでも、もとの激しい生活に戻る可能性があると考えています」
「…はい…」
どうやら理緒も、まだ不安定なことを認識しているようだ。
「…今日のあなたはずいぶん素直ですね。
では、あなたが素直なうちに、話しておきましょう
おそらく、あと三ヶ月くらい、この依存症の状態は続きます。
嫌なことがあれば、あるいは、過去のトラウマを思い出せば、また激しく何かをやりたくなるでしょう。
その点においては、私は、まだあなたが完全にめちゃくちゃな生活から脱したとは全く思ってません。
いつでも、もとに戻る可能性があると思っています」
冷たい言い方になってしまったと、誠一郎は思ったが、理緒は反論してこなかった。
「それを乗り越えたとき、あなたの"誰かに愛されたい"という夢が実現化していくと思います」
「………」
理緒が黙ったままだ。