ワインとチーズとバレエと教授
患者の家族への深入りは、あとで患者の信頼を無くす。
理緒が言うまで何も聞かない方がいいー
それでも、誠一郎は理緒の事で頭がいっぱいだった。
なぜ、彼女をこんなに気にするー
いや、医者として当然…
いや、今の自分はきっと違う…。
誠一郎の中で、理緒の存在がどんどん
特別になって行くのが分かる。
次の外来で
「もう治療はやめる」
と言い出されることを、誠一郎は一番、恐れた。
患者を助けれなかった自分ー
患者自ら、去っていく虚しさー
精神科では、よくあることだ。
でも、理緒との接点を、失うことの方が今はツラい。
そう思っている時点で、自分が抱く理緒に対する思いは特別なものだろうと、認めざるを得なかった。
取りあえず、自暴自棄になって、理緒がめちゃくちゃな生活に戻らないといいが…
いずれは内科の治療も早めに開始させたい。
今は拒否しているがバレエより自分の命を優先して欲しい。
それは、医者のエゴだと分かっている。
何より自分のエゴだということも、誠一郎は、誰よりも理解していた。