ワインとチーズとバレエと教授


「ねぇ、先生」

「なんです?」

「どうして最初、あんなに私に冷たかったの?」

「……え?」

誠一郎はドキッとした。

「冷たくなんかありませんよ、いつも通りです」

「冷たかったですよ?あれは、圧迫面接でした」

「失礼な事を言わないでください、
圧迫面接などしていません。
そして、冷たくなどしていません」

「……そうかなぁ…」

「私はいつもああなのです。
愛想がなくて申し訳ありませんね。
私の性格なのもので」

そう言いながら誠一郎は少し照れていた。

冷たくした覚えはあった。でも、その理由は
まだ言えない。いや、一生言えない。

「そうかなぁ…私、最初、先生に嫌われていると思ったわ」

「そんなことありませんよ、あなたの考え過ぎです。私は誰に対しても、こうです」

本当は違うー
と、誠一郎は思っていた。

「教授のくせに患者をイビるの?」

「失礼な事を言わないで下さいよ!
イビってなんていません、あなたに必要な会話なので強く言ったかもしれませんが…」

少しからかった覚えはあった。
からかったときの理緒の反応が、可愛らしかった。

「医者をからかうもんじゃありません」

「はいはい」

「はいは、一回で結構ですよ」

そんな会話を心地よく感じていたのは、誠一郎だけではないと信じたかった。

「では、次、二週間後、この日はどうです?」

「はい」

「では、この日で、動いたらダメですよ、ちゃんと休んでくださいね」

「分かってます!先生は心配し過ぎです!」

「あなたがいつ衝動的に動き出すか、私はヒヤヒヤしているので、私はクギを差してるのです」

「信用ないなぁ…」

「信用してないのでなく、心配してるのです」

「大丈夫です!私、早く治します!」

理緒が、受付に出す紙をサッと、誠一郎から奪うと、笑顔で診察室を出ていった。

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