ワインとチーズとバレエと教授
楽しい会話だった。
理緒が元気になりつつあるのは、喜ばしたい事だった。
でも、最近、やたらと
「早く治す、早く治す」
と言うようになった。
焦ってるわけでもなさそうだが、
急いで治すものでもないー
早く精神科から、おさらばしたいのだろうかー
そう思うと誠一郎は、少し寂しい気持ちになった。
でも、理緒にとっては、いいことだ。
理緒は自分のことをどう思っているのだろうー
誠一郎は密かにそのことを気にしていた。
なぜあのときの言葉で、生きると決断できたのだろう?
「あなたの元気な姿を見たい」
「死に行き急ぐあなたを見ていると悲し」
そう言って、理緒を引き止めた。
これは本心だった。
それで心変わりしてくれたのは嬉しかったが、
こんなに上手くいくとは思わなかった。
理緒が死んでもいいと思っていたのは事実だろう。
でも、簡単にあの決意が、コロッと変わるとも思えない。
もしかして、理緒も自分をー…
いや、自分は、なんてバカなことを考えているだ。誠一郎は、頭を振った。
あれ以来、理緒はずいぶん素直になった。
というか、素の理緒が、今の理緒なのかも知れない。
もう以前のような、かしこまった雰囲気もないし
ずいぶん明るくなった。
まさか、新しい彼氏でも出来たのか…?
だから、早く治したいのか?
それだと色んな事が納得できる。
そもそも誠一郎と理緒は
17歳も年が離れている。亮二が理緒を娘として扱うのもそのせいだ。
誠一郎は、少し悲しくなったが、結局、理緒が治ればそれでいいと思った。
その時は自分の役目をキレイに終わらせ、
亮二に結果を見せればいい。
誠一郎はむりやり、自分をそう納得させた。