ワインとチーズとバレエと教授


「薬を止めてから一ヶ月が経過しましたが、
お変わりありませんか?」

「はい」

「内科の治療はどうです?」

「動きすぎないよう、行動を制限するよう
言われてますが、大丈夫です」

「…そうですか」

理緒は順調に回復していた。
診察室に沈黙が訪れたー

お互い、何を言いたいか分かっている。

「…あなたは、よく頑張りました」

「…はい」

「内科での治療は続きます。もしかすると、何十年単位で…」

「…はい」

「…でも今のあなたは、見違えるほど良くなりました」

「先生がいたからです」

「あなたの力です、私は何もしていません…」

誠一郎は、本当にそう思っていた。

自分は何もしていない。治したのは患者自身ー

理緒がためらいながら

「私は良くなったと思いますか?」

と聞いてきた。

誠一郎は、その時が来たと感じた。

「はい、とても」

「精神科に通う必要は?」

「……今のところ、大丈夫そうですね…」

沈黙が続いたー

「慢性疲労症候群はうつ病と、併発しやすいので、あなたがまた無理をすれば、
もとに戻る可能性もありますが今のあなたなら、
大丈夫でしょう…」

「私もそう思います…」

その言葉で、理緒も誠一郎も沈黙した。

「…私は、ここを
卒業したいと思ってます」

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