ワインとチーズとバレエと教授


目の前は180度展望の、フランチレストランだった。

「いらっしゃいませ」

姿勢良く、従業員が頭を下げた。

「予約していた藤崎です」

「藤崎様ですね、お待ちしておりました。
こちらへどうぞ」

従業員の後に続き、奥の席へ導かれる。

「こちらのお席をご用意致しました、
一番、眺めが宜しいお席です」

「まぁ、素敵」

理緒が目を輝かせた。

「藤崎様のご要望で、一番展望が良い席と頂戴しております」

「あ、ありがとうございます」

理緒が照れたように言った。

「どうぞ」

椅子をひかれ、理緒が姿勢良く座る。

「最初の乾杯は、お伺いしていた通り、
スパークリングワインでよろしいでしょうか?」

従業員がそう言うと、誠一郎が理緒に、

「ああ、それなのですが、私がレストランに
そう伝えておきました、あなたが飲めないなら
別のものに変更します」

誠一郎は、そこまで
注文してくれていたのか…

「いえ、私は飲めますので大丈夫です」

「かしこまりました、では、スパークリングワインをお持ちいたします」

そう言って従業員が下がって行った。

「先生、そこまで予約してくださっていたの…?」

「私なりに一応…あなたが飲めるかどうかも聞かずにすみませんでしたね」

「いえ、嬉しいです、先生は、飲めますか?」

「まぁ、たしなむ程度には…あなたは?」

「かなり飲める方かと…と言っても発泡酒とワインくらいですが」

「意外に飲めるのですね」

そう言っている最中、スパークリングワインを注ぎにソムリエがやってきた。

二人は乾杯し、シュワシュワしたスパークリングワインを味わった。

そして、何気に外を見た理緒が、

「先生、見て!大学病院が見えるわ!」

理緒が気がついたようだ。

「見えますね」

「ここからだと、近くに見えるわ…大学病院、こんなに大きいのね…」

「大学も一緒にあるので、さらに広く見えるでしょ?」

「えぇ……なんだか懐かしいわ…」

「あはたは、卒業したのでしょ?それにまだ4日しか経ってませんよ」

「そうでしたね…」

今日の理緒は、よく照れる。

そう言っているうちに、最初の一皿が来た。

「季節のお野菜をあしらった、
ヒラメのカルパッチョと、ホワイトアスパラのソースです」

「まぁ素敵…だから最初のスパークリングワインは
ドイツのゼクトだったのですか?」

「左様でございます、まずは、土壌のよいものから
お出しした方が…お詳しいのですね」

「あ、それほどでも…」

余計な事を言ったかなと、理緒は思った。
つい亮二と一緒にいて、いろいろ覚えてしまった。

ちなみに皿はノリタケで
カトラリーは本物のシルバー。

「ごゆっくりお楽しみください」

笑顔で従業員がいなくなった。

「…あなたは詳しいのですね」

「バレエをしていると、そういう方が多いので、勉強させられます」

誠一郎は、理緒が亮二の名前を出さないように、気を遣っていると思った。その心遣いに今は従おう。

料理は進み、二杯目は赤ワインにすることにした。

誠一郎は、理緒に選ばせた方が間違いないと思った。 

ハウスワインでもいいのだが、理緒がどれほど知識があるか知りたかった。
あと、自分が恥をかきたくなかったというのが、大きな理由だ。

「ワインリストから
好きなのをどうぞ」

そう誠一郎が言うと、理緒は、

「ハウスワインでいかが?」

と、遠慮するので、

「あなたの好みのもので」

と、誠一郎は言ってみた。

すると理緒がソムリエを呼び

「お料理に合う赤ワインをお願い致します」

と、自分で選ばなかった。

ソムリエは

「かしこまりました
では、シャトー・オー・ブリオンを」

理緒が少し驚いた顔をした。

「お客様は大変、お詳しいようで、これは、わたくしからサービスさせて頂きます」

誠一郎は、なんだか、すごいことが起こったようだが、取りあえず観賞することにした。

ただ、理緒が、でしゃばらないことが分かった。

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