ワインとチーズとバレエと教授
そんな中、料理も後半に差し掛かった頃、
誠一郎は、理緒に聞きたかったことを切り出した。

「あなたに聞いてみたかった事があります」

「はい」

「なぜ、私を…?」

理緒のナイフとフォークがピタッと止まった。
そして、それらをハの字に置いた。

「最初にお会いした初診の日、先生を好きだと感じました」

理緒の横顔は微笑んでいた。

「初診の日?なぜです?」

「先生は私を理解していました」

「……一度で全ては理解できませんよ」

「それでも、ほぼ完全に理解してました

どこまで踏み込むか、何を言えば私が動くか、
よく分かっていたように感じます……」

「それは、経験数ですよ」

「あとは、よく本を読んでいるところ、
静かで知的なところ、所作が丁寧なところ、
細くて長い指がきれいなところ、言葉遣いが丁寧なところ、振る舞いが紳士なところ、あとは…たくさんあって伝えきれません…」

理緒が照れたように言った。

「その中に医者と教授は、含まれていないのですね」

「あ、大変失礼致しました。もちろん、それも素敵ですが…」

「いえ、いいんですよ」

誠一郎は、嬉しかった。
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