ワインとチーズとバレエと教授


誠一郎は、ソファに座って、本を読んでいた。

「先に入らせてくれてありがとうございます…」

「いえ、お気になさらず、それより、足が痛いでしょ?」

そう言うと誠一郎は、カバンからボルタレン湿布を出した。

「え?持ち歩いてるのですか?」

「違います、あなたが歩き過ぎて、こうなるのではないかと用意しておいたのです。まぁ、対症療法でしかないですが、ないより、マシでしょう」

誠一郎はそんなことまで予想していたのか…

「先生は、何でもお見通しなのですね…」

「まぁ、あなたを診てきましたからね」

ボルタレン湿布を渡された。

「ありがとうございます」

理緒がふくらはぎに、一枚ずつ貼った。

「さぁ、これで、ぐっすり寝れるでしょう」

「………」

理緒はもう立っていられないので、ベッドにもぞもぞ入ったが、眠りたくなかった。

「……先生は何を…?」

「私は読みたい本がありますので、お気になさらず。

あなたも気にせず眠ってください。お腹が空いたら
ルームサービスでも頼みます、明日の朝まで、寝ててもいいですよ」

「……もったいない感じだわ…先生がいるのに、眠るなんて…」

「寝てても一緒の空間にいます」

「起きたら、突然、いなくなったりしません…?」

「絶対にそんなことはありません。
私も今更、外に出る気などありませんよ。心配せずに、寝てください」

「……はい」

そう言っても、理緒は眠りたくなかった。
誠一郎の本を読んでいる姿が素敵だった。

知的で、クールで、静かで、でも、本当は熱い感情を持っている気がした。

ページをめくる指先さえ素敵に見えた。

ずっと見ていたい…

「…あなた、さっきから私ばかり見てますね」
本を読みながら誠一郎が言った。

「どうして分かったの…?」

「あなたの視線を強く感じます」

誠一郎は、一旦、テーブルに本を置いた。

そしてベッドのところにきて、理緒の隣に腰掛けた。

「あなた、寝たくないのですか?昼寝には最適な時間ですよ」

まだ昼の3時半だった。

「…先生の本を読んでいる姿が素敵で…」

「困りましたね…」

誠一郎は、理緒の髪を撫でた。
理緒が初めての誠一郎に触れられた。
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