ワインとチーズとバレエと教授
「大丈夫ですか!?」
椅子から倒れた理緒を急いで起こした。
「…私、来ちゃいけなかったような気がする…」
「何言ってるんです?」
理緒がポロポロ、涙を流す。

「私が、どんなに料理を作っても、迷惑をかけては意味はないし…私はもう、何も…できなくなるし…
その前に、誠一郎さんに、手作りの、ものを食べてほしいと…思って…何か想い出を残したく…

でも…私は、結局、迷惑をかけてて…何しにここに来たのか…」

「それは構いません。私はあなたに会えて嬉しいし、こんなすごいお料理を作ってもらえて幸せです。でもあなたを疲れさせて申し訳ない」

「ごめんなさいそうじゃなくて… 
私が全部悪いの…
私が病気のせいで…
本当に、ごめんなさ…」

理緒の瞳から涙がとめどなく溢れ出す。
理緒が何かおかしいー…
誠一郎は何か、理緒から不自然なものを感じた。

「あなた、大丈夫ですか?」

誠一郎の声がまるで届かないかのように、理緒が顔を手で覆った。

「私、もうダメかもしれない!多分もう何もできなくなる!そんな気がするの!」

理緒がめずらしく取り乱して泣き出さた。

誠一郎は、理緒が慢性疲労症候群による、うつ状態の併発とそれに伴う錯乱状態だと感じた。
特に、疲れた時に、この症状は出やすい。

「ちょっと待ってて下さい」

誠一郎は、すぐに薬を持ってきた。

こうなるような予感をしていたので抗精神薬は常に
部屋に置いてあった。

「飲んでください」

「私、うつ病なの?イヤだ!」

「そうじゃありません!一時的に、うつ状態になってるかもしれないので、これをどうぞ」

「私また病院に行くの?精神科に行くの!?」

「違います、休めば治ります、今は、落ち着いてください」

誠一郎は無理やり理緒に薬を飲ませて、理緒を寝かしつけた。

それでも、しばらく理緒の涙はとまらずグスグス言っている。

誠一郎は何度も何度も理緒の髪を撫でてやった。
そして、しばらくすると理緒が眠りに落ちていった。

誠一郎は、胸が苦しくなった。
理緒は確実に悪くなっていっているー

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