ワインとチーズとバレエと教授
翌朝、理緒が目を覚ました。
うっすらと、ブラインド越しに柔らかい光が入ってくるのと同時に、理緒は目をこすった。

隣には誠一郎が眠っていた。

一緒のベッドには眠らず、隣に書斎の椅子を持って来たようで、そこに腰掛けて、ベッドに頭を沈ませていた。

そこには、すやすや眠る誠一郎の顔があった。

理緒は昨日、自分に何があったか、よく思い出せない。

確か、誠一郎に料理を作って、その後…
そうだ、倒れて…そう思ったと同時に、
理緒はベッドから身体を起こした。

それに誠一郎も、はっと目を覚ました。

「大丈夫ですか…?」

誠一郎は心配そうに理緒の顔を覗き込んだ。

「えぇ…あの、私、どうしたのか、よく覚えてなくて…」

「疲れて体調が悪くなったのです。
今は大丈夫ですか?薬が効いたんじゃないでしょうか」

理緒があいまいにうなずいた。

薬…確かに薬を飲んで…誠一郎に寝かしつけられ…
自分は、かなり、迷惑をかけたのではと思った。

「…あなた、昨日から何も食べていないでしょう?
今、何か作りますね」

そう言うと、誠一郎は少し疲れた顔で微笑んだ。

「何か食べたいものはありますか?
あなたが昨日作ってくださった懐石料理が残っていますが…」

理緒が首を横に振った。

「…あれは、お口に合えば、誠一郎さん、どうぞ…
…私はあんまり食べたくないです…」

理緒の記憶が戻ってきた。

そうだ、昨日は、突然、涙が出て来て…

理緒は、恥ずかしいことをしたと思った。

なぜ、あんなに取り乱したのだろう…

誠一郎は、立ち上がり、ベッドに腰をかけ、理緒を抱きしめた。

「心配でした…でも、何か食べてください…」

「…あの、私、昨日、変なこと言いましたよね…?」

「いえ、そんなことありません、ただ疲れていたのです」

誠一郎は理緒の美しい黒髪を撫でながらそう言った。

「何でもいいので、食べたいものはないですか?
作れる範囲で作ります」

そう言うと理緒が

「…あの、私が作ってきた出汁がまだ余ってまして…誠一郎さんの炊飯器の中にご飯があって、それで…」

理緒がもじもじしている。

「それで?」 

「…お雑炊を作ることって出来ますか…?」

そういうのが食べたいのか。

「はい、わかりました、私が作るもので宜しければ。溶き卵も入れても大丈夫ですか?」

「嬉しいです…」

誠一郎は理緒のほほにキスをした。

「ちょっと、待っててください」

誠一郎は、早速キッチンに向い、理緒がタッパに入れて持って来た特製ダシを使い、炊飯器のご飯を少し鍋に入れグツグツ煮立たせた。

これだと、おかゆとそう変わらない。

味があるか、ないかだけだろう。

そして、溶き卵を入れ、ついでに、もっと栄養を
とってもらいたいので、昨日の山芋のしそ漬けを
すりおろして、とろろ芋にして雑炊の上にかけた。

かなり、適当な雑炊だが一度に沢山の栄養を取って欲しい。雑炊を、適当などんぶりに流し込み、
お盆に置いて、理緒のいる寝室へ持って行った。

< 223 / 302 >

この作品をシェア

pagetop