ワインとチーズとバレエと教授
「食べれそうですか?今、私が即席で作ったものです。美味しいかは分かりませんが…」
「わぁ、美味しそう」
理緒の顔が明るくなった。
「私、雑炊、好きなんです…」
理緒がそう言った。
誠一郎は、雑炊を入れたお盆をベッドの上に置いた。
「…こんなのでよければ、どうぞ、食べてください。勝手に溶き卵を入れて、昨日の山芋をすりおろして、とろろにして、かけました。見た目とセンスは置いておき栄養的には満点ですよ」
理緒の顔がぱぁと明るくなった。
「わぁ、嬉しい…」
理緒は「頂きます」と言いどんぶりに入った雑炊を
スプーンで一口、食べた。
卵がフワフワでご飯は柔らかく美味しい。
誠一郎が、山芋をすりおろして入れるとは思っていなかったが、そんな気遣いがうれしい。
「…どうですか」
誠一郎は不安気に聞いたが理緒が「美味しいです」と微笑んで、二口目を食べた。
「誠一郎さん、すごくお料理お上手ですね」
「あなたの、作ってきた出汁のおかげですよ」
誠一郎は、微笑んだ。
「誠一郎さん、もし良かったら一口、いかがです?」
理緒がスプーンで、雑炊をすくい、誠一郎に差し出した。
それを誠一郎の口に持って行き、誠一郎もそれをパクっと一口食べてみた。
「なかなかイケますね、まぁ、あなたの出汁のおかげでしょうか」
やはりインスタの画像と理緒の趣向は全く違う印象だった
理緒は素朴なものが好きらしい。高級ホテルより
動物園ーフレンチより雑炊や、冷凍ロコモコ丼ー
懐石を手作りしても、食べたいのは雑炊ー
誠一郎は、理緒にギャップを感じたが、それが嬉しかった。
理緒は昨日より落ち着きを取り戻し
雑炊は1/2は食べれたようだ。
「…あの、残しちゃったんですけど後で食べますので…」
「わかってます」
理緒は残したものは必ず後で食べる。
二人は顔を見合わせクスッと笑った。
そして誠一郎は、お盆を下げると、再び理緒のベッドの横に腰を下ろした。
「食べたことですし、少し眠っていてくださいね。
それと、薬と水です、どうぞ」
「あ、忘れてた…」
理緒が持って来たバッグから薬を取り出し、水で飲み干した。
そして、
「…あの、私、もう元気です、昨日はすみませんでした。どこかに行こうと思えば行けます…」
一応、誠一郎にプランがあるのか聞いてみたかった。
「ダメです、あなたは昨日倒れたのですよ?
良くなったように思えるのは薬の影響です。
それに、今回は特に予定を考えていませんでした。
あなたと一緒にゆっくり過ごせればいいと思ってました」
「そう…」
理緒は少し残念そうな顔をしたが、誠一郎と一緒にいられるならそれでいいと思った。
「もう少し、眠っていてください、私は書斎にいます」
誠一郎は理緒の髪を撫でそっと、ほほにキスをした。
「…はい、お休みなさい」
理緒は再びベッドに潜り込んだ。
理緒が目を覚ましたのは昼過ぎだった。
体調も良くなったのでキッチンへ向かった。
誠一郎は、キッチンから何か音がするので覗いてみた。
「あ、今、持って来た紅茶を入れようと思って…」
理緒がマンダリンオリエンタルホテルの紅茶を用意していた。
きっと、高級なものだろうー
「誠一郎さんが良ければ一緒にいかがです?」
理緒が微笑みながらポットにお湯を注いでいる。
「えぇ、では頂きます」
近くに行くと、ふわっと上品な紅茶の香りがした。
「こちらも、私が好きな紅茶です」
誠一郎のマンションにあるカップアンドソーサーは
大したものではないが、紅茶は間違いなく一流品だ。
理緒が紅茶を注ぐと誠一郎に渡した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
誠一郎は、紅茶の香りに思わず、うっとりした。香水のようで、くどくない上品な、何とも言えない香りだ。
「烏龍茶を主体としてますが香りはとても良いですよ」
理緒は、紅茶に詳しい。
「頂きます」
誠一郎が一口飲むとやはり、今まで、飲んだことのない香りの上品な味だ。
そもそもマンダリンオリエンタルホテル自体が、五つ星ホテルだ。そこの紅茶なのだから、美味しくないわけがない。
「…本当に美味しいですね」
「気に入って頂けて良かったです」
理緒も一口飲んで微笑んだ。それから、二人は。私の静かな時間を過ごした。