ワインとチーズとバレエと教授
その日の二人は、ゆったりとした時間を過ごした。
何をするわけでもなく、ただ理緒の好きなクラシックを聴き、誠一郎は本を読み、時々理緒は紅茶を飲みながらうつら、うつら、したら、ベッドに横になった。
そして翌朝、理緒は、いつもの元気を取り戻していた。
相変わらず朝食は、冷凍食品のロコモコ丼を理緒は
食べていた。
どうやら理緒は同じものを何度も食べる傾向がある。
病院の食堂でもデミオムライスを2回も頼んだし、
今回も冷凍ロコモコ丼だろうと誠一郎は思っていたが「好きなのをどうぞ」と冷凍食品の中から
選ばせると、やっぱり理緒は、冷凍ロコモコ丼を選んだ。
美味しそうにロコモコ丼をほうばって食べる理緒を見て、誠一郎は安堵した。
「あなたはこれが好きですね」
誠一郎はクスっと笑った。
理緒が「だって、美味しいですから」と卵の黄身を割ってご飯に混ぜてパクリと口に運んだ。
誠一郎はそんな理緒の姿を見て微笑んだ。
「…あの、私、元気です。少し誠一郎さんと外に出かけたいです…」
理緒が遠慮がちにそう言いった。
誠一郎は自分の、あんかけ焼きそばをチンしながら
「どこに行きたいですか?」
と聞くと理緒は
「えっと…水族館に行きたいです」
誠一郎は、思った通りだと思った。
理緒は動物が好きらしい。動物園ときたら水族館とくるだろうと思っていた。
今日の理緒は歩けそうではある。
ー近くの水族館であれば、車で30分ほどで到着する。
「近所の小さな水族館であれば…」
誠一郎の言葉に理緒が、ぱぁと、顔が明るくなった。本当に分かりやすい。
「その前にちゃんとご飯を食べなきゃダメですよ。そして水族館にいる時間は長くても1時間半にしましょう」
「えっ?たったそれだけ…?」
理緒は驚いた顔をした。
「私は大丈夫です!」
「そう言って前も動物園で倒れたでしょ?
ゆっくり歩いて一時間半で帰りましょう」
「…でも全部見終われないかも…じゃあ急ぎ足で回らなきゃ!」
「それも駄目です、ゆっくりです。
そして全部見終わらなければ、また次、行けばいいじゃないですか」
誠一郎は、どこかで思った。
次があるのだろうかー?
おそらく理緒も同じことを考えているだろう。
理緒は何となく寂しそうな顔をしながら
「そうですね」
と微笑んだ。