ワインとチーズとバレエと教授
理緒のシャワーの音が消え、代わりにドライヤーで
髪を乾かす音が聞こえてきた。
バスルームから出てきた理緒に 誠一郎は
「どうぞ」
と理緒の持ってきたマリアージュという紅茶の、ダージリンを入れたカップ&ソーサーを差し出した。
「あなたの物ですが、勝手に入れさせて頂きました」
「まあ、ありがとうございます」
理緒は風呂上がりのせいか、髪が少し、しっとり濡れ、そこはかとなく美しく見えた。
「座ってゆっくりしててください、私もシャワーを浴びてきます。眠たかったらベッドを使ってくだい、おそらく足が痛いでしょうから」
理緒が驚いた顔をしたが
「大丈夫です」
と微笑んだ。多分、足が痛いのだろう。
誠一郎は、ささっとシャワーを浴びて、
髪を乾かし、リビングに行くと、今度は理緒が誠一郎の分の紅茶を入れていた。
「どうぞ、是非飲んでみてください、マリアージュの紅茶は美味しいです」
誠一郎もリビングに座ると、理緒の入れてくれた紅茶を飲んだ。
そのダージリンは、本当に美味しかった。
今まで飲んだタージリンとは全然違う。
香りも違うし後味も違う…
「驚きました?これはダージリンとほんの少し
アールグレイがブレンドされているんです」
「あぁ、それで…あなたは紅茶のセンスがいいですね、このダージリンは香りがとてもいいです」
2人は静かに紅茶を飲んだ。何も話さず、ただ静かな時間を堪能していた。
そのとき、誠一郎はおもむろに
「ちょっと待っててください」
といい書斎に向かい、ボルタレンシップを2枚持ってきた。
「どこが痛いですか?」
「…え…大丈夫です」
「あれだけ歩けば痛いはずです、対症療法にしかなりませんが、とりあえず貼りますね、ふくらはぎですか?」
理緒が、ふくらはぎを指さした。
「そんなことだろうと思っていました。頭痛はしますか?」
「…いえ、今日は大丈夫そうです」
「それは、よかったです」
理緒の細い足に、誠一郎は医療用のボルタレンシップを貼った。
「これで、しばらくは大丈夫でしょう」
「…本当に、いつもありがとうございます…」
理緒が申し訳なさそうな顔をした。でも、理緒は幸せだった。この幸せがずっと続けばいいのにと望んでしまう…
「今日は本当にありがとうございます。素敵なお時間をプレゼントしてくれて」 理緒は再び笑顔になった。だが、どこか不安そうだった。
誠一郎は「これからもずっと続きますよ」 そう言って理緒のくちびるにそっとキスをした。理緒のキスはダージリンの味がした。