ワインとチーズとバレエと教授
帰宅してマンションの部屋に入ると、留守番電話の通知が点滅しているように見えた。
そして、再生ボタンを押すと母親からだった。
「誠一郎、さっきはごめんなさい、お母さんが悪かったわ誠一郎がずっと、そんなふうに思っていただなんて…今、お父さんも大変だし…もう一度、家に来て話し合わない?
お母さんね、色々、誠一郎のことを思って…
聞いてるでしょ、誠一郎?」
またか……
誠一郎は再生ボタンを停止して受話器を置いた。
今の時代、ほとんど携帯電話が連絡手段の主流だが、誠一郎の母親は、どうやら固定電話しか使えないらしい。
誠一郎は、大きなため息をつき、冷蔵庫を開けて、
ビールをに手を取りそれを煽るように飲んだ。
きっと理緒は心配しているだろう…
明日はきちんとLINEをしなければ…そう思った。
誠一郎は疲れ果てた身体を引きずってシャワールームへ行き、さっさと寝ることにした。
寝室へ行き、ベッドに身体を沈み込ませると、理緒の香りが、わずかにする。
昨日の自分は何か変だった。まあ、いま、考えも仕方がない…誠一郎は布団をかぶり携帯電話で目覚ましをかけ、休むことにした。
「理緒…」
思わず理緒の名前をつぶやいた。
愛しい理緒ー
なぜ自分の心を、こんなにかき乱すのだろう…
ただの患者ではなくなぜ亮二の姪であり、養女であり、なぜそんな美しい彼女がわざわざ自分のところへ…
出会いが違えばもっと別の展開があったのか…
誠一郎は、いろんなことに思いを巡らせた。
やっぱり眠れない。
今日は亮二にも、ひどいことを言ってしまった。
つい感情的になり亮二が理緒を引き取ったことも忘れていた。
今の理緒があるのは亮二の献身的な支えのおかげでもある。
まず、そこに感謝すべきなのに、自分はずいぶん
ひどい言い方をしてしまった。誠一郎は反省した。
やはり寝付けない。
誠一郎はベッドから起きると、書斎に行き、なんとなく文献や書類に目を通した。
書斎の引き出しの中には、安定剤があり、それを2錠ほど飲んだ。
最近、セルシンをいつも飲んでいる。
そして、何となく飲みたい気分だったので、二本目のビールもあけた。
だからと言って、何の気安めにもならないが、飲まずにいられなかった。
明日から、また同じ日常が始まる。
違うのは自分の生活に理緒が加わったことだ。
明日は理緒に心配をかけないようきちんとLINEをしよう…
そう思うと少しだけウトウトしてきた。
誠一郎は書斎のパソコンの前で、いつの間にか眠ってしまった。