ワインとチーズとバレエと教授
"誠一郎!"

"うるさい!あなたが先に俺の手を振り払った!"

誠一郎はハッと目が覚めた。何か嫌な夢を見ていた気がする…
そこは白い天井に、周りは水色のカーテンに囲まれて、自分の腕を見ると、点滴ルートでつながれていた。

急いで体を起こし、周りを見ると、看護師が駆け寄ってきた。

「藤崎先生、大丈夫ですか?心配しました!お加減は、いかがですか?」

「えっと…大丈夫です。点滴のルートは外してくれていいです。今、何時でしょうか?外来の患者を待たせているので…」
と言う誠一郎に、看護師が呆れた顔で
「…先生、さっき倒れたのですよ?先生の外来患者さんは、他の先生に振り分けました、ご安心ください」と言ったが、誠一郎は「いえ、もう大丈夫です」と、看護師の静止を振り切って身体を起こした。

「藤崎先生、お目覚めですか?」と、山本医師が、こちらにやってきた。

「まさか津川さんより、先生の方が先に倒れるとは
思いませんでしたよ。医者の不養生とは、こういうことを言うんですな」

「そんなことありません!」
誠一郎はムッとした顔を見せた。
「そんなところはお父様譲りですな」
「父と一緒にしないでください!」
「まあ、そんなに頑固にならず…これから 血液検査をしてもらいます」

「血液検査?」

「倒れたのだから、検査をするのは当然でしょう。
それと、トイレにいたようですが、嘔吐されたのですか?」

「…はい」

「胃の調子はどうですか?」

「今は大丈夫です」

「何か心当たりは?」

「特にありません」

「最近お疲れでは?」

「いいえ」

誠一郎は本当に思いつかなかった。

「では 血液検査だけでもしましょう」

そう山本医師に促され、処置室に行き血液検査をし、患者の気分を嫌というほど味わった、誠一郎は早く外来に戻りたいという、焦燥感にかられていた。


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