ワインとチーズとバレエと教授


「藤崎先生の容態は?」

「意識がありません!
いつ頃着きますか?」

「大丈夫です、 もうほとんど近くについています、あと1分ほどで到着します」

と言うと救急車の音が聞こえた。

「お願いです、助けてください、お願いです…」

理緒は神にでも祈るかのように救急隊員に言い続けた。

「大丈夫です、あなたのお名前は?」

「津川理緒です、藤崎先生の同期の医師の姪です」

「分かりました」

そういうと玄関に救急車が到着した。

「藤崎先生、大丈夫ですか?」

やはり救急隊員は誠一郎と顔見知りだったようだ。

やはり大学病院にも、よく患者を搬送するようだ。
理緒も、過去に誠一郎の所へ搬送された。

誠一郎はぐったりし、口から大量に血を流していた。

「何か食べましたか?」

「食べれないので野菜ジュースを…でもほとんど飲めず、一口飲んだら嘔吐して、その後、吐血を…
昨日は、胃が痛いと言って食事が食べれず…
あと昨日も病院で胃が痛くなったと…」

「分かりました、搬送先は大学病院にしましょうか?お勤め先ですし、同僚の方も分かっていらっしゃると思いますので、藤崎先生、聞こえますか!」

誠一郎は応答しない。

誠一郎は、すぐにストレッチャーに乗せられ血圧を測られた。

理緒も救急車に一緒に乗った。

「誠一郎さん、お願いだから…」

「藤崎先生、お名前言えますか?」

その声に、誠一郎がうっすらと反応した

「誠一郎さん、私はここにいます…!」

「…り…お……あいして…」

その言葉で、誠一郎は意識を失った。

大学病院に到着すると誠一郎は、救急外来に運ばれた。

医局員は搬送されてきた誠一郎を見て、次々

「藤崎先生、一体どうされたんですか!」

「先生、しっかりしてください!」

と、声をかけた。

「これから検査します」

と山本先生が出てきた。

「山本先生!」

知ってる医者の顔を見て、理緒はいくぶんホッとした。

「藤崎先生は、昨日も病院で倒れてます」

「…え!家ではそんな素振りは…」

「そうでしょうねぇ、あなたに心配をかけたくなかったんでしょう、これから麻酔を使って胃カメラをします、その後は腹部エコー、もう一度、血液検査もします。出血がひどければ内視鏡を使い、そのままクリップで出血を止め全身状態を安定させます、
おい、準備できてるか?」

「はい、準備できてます」

若い医師が返事をした。

「山本先生、どうか誠一郎さんをお願いします…」

「結果が分かり次第、お伝えしますので、そこで座っていてください、あなたも無理はしてはいけないのだから」

「はい…」

その時、後ろから

「理緒ちゃん!」

と聞き覚えのある声がした。

「早苗さん…!」

以前、食堂であった誠一郎と親しい早苗だ。

「誠一郎、大丈夫?」

「早苗さん… 早苗さん…」

理緒は、瞳にいっぱい涙をあふれさせた。

「理緒ちゃん、大丈夫よ、アイツのことだから、すぐ…」

「そうじゃないんです…!」

「えっ…?」

「誠一郎さんが、おかしいって早苗さんは知っているんでしょう…?医局員の皆さんも……!!」

早苗も、医局員も無言で、静まり返った。

「私は、誠一郎さんを助けたいんです!」

そこにいる、全員がうつむいた。

「理緒ちゃん…」

と、同情した目で早苗は理緒を抱きしめた。

理緒が、わーっと早苗の胸の中で泣いた。

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