ワインとチーズとバレエと教授
同年2018年9月ー
40才で教授になった誠一郎の教授就任式は、異例の謝罪から始まったー
「父が、皆さんに対して申し訳ありませんでした」
誠一郎は深々と頭を下げた。
自分がトロントに留学し、医局で父が独裁体制を取っていたことも知らず、
とくに父親の退官までの3年間は、父親の不必要なプライドを守るため、無用な気遣いを強いてきたこと、
また、この大学病院精神科の秩序を保ち続けてくれたことへの感謝と、それに伴った犠牲への謝罪だったー
教授になった誠一郎は医局員、みんなの前で
「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。
医局員からは、すすり泣く声があった。
教授になれと言われた父親の言葉と、その重圧、
そこから逃れられない誠一郎の運命、そしてあれだけ 「教授になれ! 教授になれ!」と誠一郎を怒鳴った前教授は、今や息子が教授になったことすら忘れかけているー
そんな誠一郎が、どんな思いで今この場に立っているのか…全員がそう思わずにはいられなかった。
「私は皆さんにこの場でお約束します、私は父のような権威主義的な医局を作ろうとは思いません、皆さんは、お一人、お一人、ご自身の好きなテーマを研究して欲しいです。必要だったら私からテーマを与えます。この医局は、今後、風通しの良いものにしなければいけません。また、父が失墜させた、この医局の名誉も回復しなければなりません。
父の素晴らしいところは引き継ぎ、
不要なところは排除します。
高圧的だった父のやり方は私の代ではありえないー
今後も、この国立大学精神科の伝統と秩序と、患者様の人権を確実に守りつつ、研究、臨床、教育で前進していきたい所存です」
その誠一郎の言葉に医局員全員が、誠一郎の教授就任を祝福した。
そして、誠一郎は、医局員から、絶大な支持を受けた。そして父親が残した汚名を一人でかぶろうとする誠一郎を責める者は誰もいなかった。
それより、誠一郎には、同情的な面が目立ち、また、誠一郎の高潔さが、かえって誠実に映った。
そして誠一郎は父親の厳格なところも、しっかり受け継いでいた。自分に厳しく、しかし、医局員にはおおらかだった。
だが、どこか淡々としていて、自分の感情をさらけ出すことはしなかった。患者の前でも、冗談を言える医者ではなかったし、父親が作った数々の失態を、誠一郎は尻拭いする形で精神科の名誉を回復させた。
そんな誠一郎に、恋愛や結婚などする余裕はなかった。
ひたすら研究と論文で成果を上げ、外来で紳士に患者と向き合い、誰にも「父親の七光り」とは言わせない気迫もあった。その厳格さは、かえって誠一郎を追い詰めていった。
医局員もそんな誠一郎を心配したが
「私は大丈夫ですよ」
と言うばかりだった。そしてそんなとき、理緒が現れた。そして、誠一郎の殻が少しずつ、少しずつ、溶けていったー
40才で教授になった誠一郎の教授就任式は、異例の謝罪から始まったー
「父が、皆さんに対して申し訳ありませんでした」
誠一郎は深々と頭を下げた。
自分がトロントに留学し、医局で父が独裁体制を取っていたことも知らず、
とくに父親の退官までの3年間は、父親の不必要なプライドを守るため、無用な気遣いを強いてきたこと、
また、この大学病院精神科の秩序を保ち続けてくれたことへの感謝と、それに伴った犠牲への謝罪だったー
教授になった誠一郎は医局員、みんなの前で
「申し訳ありませんでした」と頭を下げた。
医局員からは、すすり泣く声があった。
教授になれと言われた父親の言葉と、その重圧、
そこから逃れられない誠一郎の運命、そしてあれだけ 「教授になれ! 教授になれ!」と誠一郎を怒鳴った前教授は、今や息子が教授になったことすら忘れかけているー
そんな誠一郎が、どんな思いで今この場に立っているのか…全員がそう思わずにはいられなかった。
「私は皆さんにこの場でお約束します、私は父のような権威主義的な医局を作ろうとは思いません、皆さんは、お一人、お一人、ご自身の好きなテーマを研究して欲しいです。必要だったら私からテーマを与えます。この医局は、今後、風通しの良いものにしなければいけません。また、父が失墜させた、この医局の名誉も回復しなければなりません。
父の素晴らしいところは引き継ぎ、
不要なところは排除します。
高圧的だった父のやり方は私の代ではありえないー
今後も、この国立大学精神科の伝統と秩序と、患者様の人権を確実に守りつつ、研究、臨床、教育で前進していきたい所存です」
その誠一郎の言葉に医局員全員が、誠一郎の教授就任を祝福した。
そして、誠一郎は、医局員から、絶大な支持を受けた。そして父親が残した汚名を一人でかぶろうとする誠一郎を責める者は誰もいなかった。
それより、誠一郎には、同情的な面が目立ち、また、誠一郎の高潔さが、かえって誠実に映った。
そして誠一郎は父親の厳格なところも、しっかり受け継いでいた。自分に厳しく、しかし、医局員にはおおらかだった。
だが、どこか淡々としていて、自分の感情をさらけ出すことはしなかった。患者の前でも、冗談を言える医者ではなかったし、父親が作った数々の失態を、誠一郎は尻拭いする形で精神科の名誉を回復させた。
そんな誠一郎に、恋愛や結婚などする余裕はなかった。
ひたすら研究と論文で成果を上げ、外来で紳士に患者と向き合い、誰にも「父親の七光り」とは言わせない気迫もあった。その厳格さは、かえって誠一郎を追い詰めていった。
医局員もそんな誠一郎を心配したが
「私は大丈夫ですよ」
と言うばかりだった。そしてそんなとき、理緒が現れた。そして、誠一郎の殻が少しずつ、少しずつ、溶けていったー