ワインとチーズとバレエと教授
誠一郎は2週間の入院期間を終え、無事退院することができた。
自宅マンションには戻らず、そのまま理緒に自宅からスーツとネクタイを持ってきてもらい、
それを身につけ、そのまま父親が入院している病室に理緒を連れて行き、そのあと、外来に向かおうと思っていた。
医局員たちは朝から誠一郎の病室に出向き
「先生、無事、退院おめでとうございます」
と、花束を渡した。
「先生、どうか今後もご無理なさらず…」
と次々に医局員が挨拶に訪れた。
理緒は誠一郎の偉大さを改めて実感した。
そしていつのまにか理緒は誠一郎の正式な"婚約者"として黙認されており
「理緒さんがいるから先生も、ずいぶんお元気になられました」
「うるわしき乙女がいらっしゃり、藤崎先生は幸せですね」
など医局員から少しからかわれた誠一郎だったが、それでも嬉しそうだった。
「皆さん、大変ご迷惑をおかけしました。私が不在の間、業務が大変になったことを申し訳なく思っております、これからは気をつけます」
誠一郎はみんなの前で頭を下げた。
山本医師もやってきて
「まだ無理しちゃいけませんよ先生」
と肩をポンと叩いた。
「山本先生、この度は本当に申し訳ありませんでした、面目ないというか…」
「医者の不養生とはまさに、こういうことですな」
「それと、彼女をいつも通りよろしくお願いします」
「理緒さんは大丈夫ですよ、それより今は、あなたの方が心配だ」
山本医師は、からかうように言った。