ワインとチーズとバレエと教授








誠一郎は全てを思い出した。2020年2月19日、誠一郎の誕生日の翌日、母親は首を吊って自殺したー
「…あの日、実家に行ったのは、俺の誕生日のせいか…」 誠一郎は、ぽつんとつぶやいた。
自分は3年間も、母親が自殺した記憶を失っていたのか…自分がそれで教授をやって、患者を診ていたのか…。誠一郎は、また左手を掻いた。

「誠一郎さん…」

理緒の声がして、ハッと誠一郎は現実に戻ったー
知らない間にまた、左手の甲を引っ掻いていた。医局員は静かに見守っている。誠一郎が全てを思い出したことを察したようだった。じゃあ、皆はずっと、自分の健忘に付き合っていたのか?

そとき父親が「誠一郎、これをやる」と、袋紙に入ったビー玉のようなアメ玉を3つ差し出した。「他の子に渡しちゃダメだぞ、お前は、優しい子だから…母さんには内緒だ」そう言って、彰一郎は誠一郎の手にアメ玉を渡した。
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