ワインとチーズとバレエと教授
誠一郎は、一粒の涙が、ほほをつたった。
理緒も、医局員も目頭が熱くなった。

「…父さん、俺、一生懸命、頑張って勉強するね…」

上機嫌になった父を見て、誠一郎は、ふるえる声を絞り出した。

医局員の、すすり泣く声が聞こえた。
誠一郎は、後ろを振り返り、

「…皆さん、外に出ましょうか…」

と、父親の病院からの退室を促した。廊下に出た。
誠一郎は呆然とながら、手の中にある、ビー玉のようなアメ玉を見た。

何度も夢に見た光景ー
母親の録音電話ー
新聞記事ー
みんな、知ってたのか…みんな知ってて自分だけが、母親が自殺したことを忘れていたのか…

3年間もー

そっか…それで皆、心配でついてきてくれてたのか…

医局員は、誠一郎を見守った。理緒も見守った。

「多分、俺のせいで…母さんは…」

そう呟くと、誠一郎は意識を失いパタンと廊下に倒れた。誠一郎の手から、アメ玉が散らばったー

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