ワインとチーズとバレエと教授
「せっかく退院したのに、またあなたは内科の処置室ですね。理緒さんよりも、あなたの方が心配ですよ」

山本医師は大きくため息をついた。誠一郎も「はぁ…」と、深いため息をついた。

「山本先生は、ずっと気づいていたんですか?」
「何をです?」
「私の解離性健忘について」
「そんなこと、この大学病院の皆さんが知ってますよ」
山本医師は笑った。
「…そうですか」
「ショックを受けないでください、医者だって人間ですよ」
山本医師は、ベッドに寝かされてる誠一郎の隣のパイプ椅子に深く腰を下ろした。
解離性健忘とは、過去のショックな出来事が、一時的に記憶から失なわれる障害だ。空白時間があり、誠一郎の場合は、それを思い出すことはできず、また、それを忘れたことも忘れ、日常生活に溶け込んでいった。おそらく、白衣に袖を通したとき、全てを忘れたのだろうー
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