ワインとチーズとバレエと教授
医局に、誠一郎が戻ってきて、皆が心配そうに誠一郎の方を向いた。
「…先生、大丈夫ですか?」
誠一郎は、「全員そろってないが、少し話を聞いてください。3年間、皆さんに申し訳ないことをしました。自分が解離性健忘になっているとは思わず、父を見舞いに行くとき、あなた方がいつも、ついてきてくれたのは、私を心配してくれたためでしょう。このような事態になって申し訳ありません。そして、改めて私は部下に恵まれています。皆さん、私のことをこれほど心配してくれて感謝しています。もう、大丈夫です」
誠一郎は頭を下げた。医局員の中には涙を抑えている者もいた。
「今日私は、退院したばかりです。申し訳ないですが、早めに帰宅しようと思います。他の先生方にも改めて謝罪させて頂きます。では皆さん、通常通りでお願いします」
そう言うと誠一郎は午後の外来へ向かった。
誠一郎は、淡々と午後の外来をこなし、今まで溜まった書類にざっと目を通した。
6時になったら帰宅し、心配しているだろう理緒を
早く抱きしめたいと思った。
理緒は全部、知っていたのだろうかー?
亮二から聞いていたのだろうかー?
最近はずっと理緒を心配させっぱなしだ。職員用の玄関から出て、久しぶりの、自宅マンションへ向かった。