ワインとチーズとバレエと教授
翌日、誠一郎は39度の高熱を出した。

それでも、診察のため病院へ行くのを嫌がった。
理緒は、亮二に電話をした。

亮二は、点滴パックを持って誠一郎のマンションに
やってきた。

「どうだ、様子は」

亮二が聞くと

「うなされてる…でも、病院には行きたくないと…」

「だろうな…」

亮二がそっと誠一郎の寝室に入った。

そこには、うずくまって、子供のように眠る誠一郎がいた。本当に子供の様に見えるー

ひたいと首から、ひどい汗を流し、左手からは、血が出ている。

「精神的なデドックスってところだな」

亮二は、誠一郎の、白く、やつれた腕に消毒し、針を刺して点滴に繋げた。

「解熱剤と安定剤が入っている。目が覚めたら水分を少しでも取るように言っておいてくれ。また、夜、点滴を交換しに来る。安定剤が入ってるからしばらく眠るだろう。
大丈夫だ、2、3日で元の誠一郎に戻る」

「亮二さん、ありがとう…」

亮二は、そのまま病院に出勤していった。
2、3日はその繰り返しだった。

熱にうなされ、苦しそうに胸を抑え、うわ言を繰り返す誠一郎を見て、理緒は泣きたくなった。

その度に、亮二が点滴を入れ替え四日目の朝、
誠一郎は、何事もなかったかのように目が覚めた。

「起きたか?」

「り…りょ…じ」

誠一郎は驚いた顔をした。声がかすれて、うまく喋れない。

「お前が解離性健忘から回復し、まぁ、どうせ、そのショックで熱が出たんだろ…」

「………」

「ルート、外すぞ」

「あぁ…」

手際よく亮二は点滴を抜いた。

「亮二にまで…迷惑をかけたな…」

「もう、皆に迷惑をかけっぱなしだよ、お前は」

「………」

「冗談だよ、お帰り、お前の歳はいくつだ?」

「……45…」

「安心した」

「…亮二、ありがとう…」

誠一郎はかすれた声で微笑んだ。

「外科屋のオレを3日もこき使ったんだ、高く付くぞ!今度、メシでも奢れよ」

「あぁ…」

「大学病院には連絡してある、あと、2、3日休め」

「…うん…」

「じゃ、オレは帰る、理緒ならリビングで仮眠を取ってる、じゃ」

亮二は、簡素に説明すると風のようにいなくなった。

リビングに行くと、テーブルに頭をつけて理緒が眠っていた。

「もう、大丈夫だから、安心してください」

誠一郎は、眠っている理緒にそっとキスをした。

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