ワインとチーズとバレエと教授
あれから三ヶ月後の2023年9月秋に、大きな日本精神科学会があった。

誠一郎の発表した論文は大きな賞を取った。

医局員からも

「藤崎先生おめでとうございます」

と賛辞の声が続き、他の大学や研究機関からも

「おめでとうございます」

と拍手を受けた誠一郎の姿があった。

その研究論文は、誠一郎の父親が書き続けていた統合失調症の論文で、誤字脱字がひどいものの、誠一郎には、何を言いたいのか分かり、論文を書き直し、誠一郎が、その研究を引き継いだのもあり、父との連名での論文となった。

誠一郎は、同情票が入ったことも理解しながら、その結果を受けとめた

論文は3ヶ月間で、急いで書き上げた。寝る暇も惜しんで、パソコンに打ち込んだ。

夜は理緒が心配して、お茶や手作りのお菓子を、夜中の1時まで論文を書いている誠一郎の書斎に持ってきてくれた。

「あなたは、早く寝てください」

と言うと「はい」と静かに書斎を出るが、理緒は誠一郎が寝るまで寝室で待っていた。朝は誠一郎よりも早く起き、朝食の支度をしてくれた。

忙しくて、ほとんど理緒に言葉をかけて
やれなかったが、理緒は一言も文句を言わず、献身的に誠一郎を支えた。

そんな、つつましい態度の理緒が誠一郎は大好きだった。
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