ワインとチーズとバレエと教授
「私は誕生日も大嫌い、クリスマスも大嫌い、お正月も大嫌い、12月は私にとって最悪な月でしたー
28年前までは…こんな素敵なお誕生日が来るなんて思わなかったです」

理緒が微笑んだ。
理緒の今までの生活を考えると、そうだろうな、と誠一郎は思った。

「これからはずっと幸せな誕生日を祝いましょう。そのためにも、あなたは山本先生の言うことを聞いてきちんと治療しなければなりませんよ」

「はい」

理緒の慢性疲労症候群は、ほんの少しだけ回復してきた。長時間歩くことはできないが、リカバリーに専念してくれてよかったと誠一郎は思った。

誠一郎が家にいれば、理緒も家にいる。
誠一郎が食事をすれば、理緒も食べる。
誠一郎が寝れば、理緒も寝る。
その生活が、いい循環を生んだ。
「それと、プレゼントです…」
誠一郎がリボンがついている小さな箱を手渡した。

「ありがとうございます」

理緒が目を輝かせて、そっとリボンをほどき箱を開けると、ダイヤと真珠であしらわれた、髪飾りとブローチがペアになって入っていた。

「まあ…綺麗…」

「あなたは品があり華もあります、長い艶やかな黒髪にその髪飾りが合うと思いまして…」

髪飾りは洗練され美しかった 。
職人が一つ一つ手作りで作っている高級ブランドだ。

ブローチは、理緒の誕生日に合わせたのか、
六角形の雪の結晶の形をしたもので、ダイヤが散りばめられていた。

「ありがとうございます」

理緒が早速、髪飾りを右耳の上に留めた。

「あなたの髪は何でも似合う」

理緒は微笑んだ。

「今時、ブローチをつけている方は少ないですが、あなたは、時々つけてるようで、それにしました、
あなたに似合いそうで…」

理緒は、時々ブローチをつけていた。

「よく見てくださっていたのですね」

「見てますよ、あなたのことはいつだって」

二人は、クスッと笑った。そして誠一郎は

「来年の3月18日、月曜、私の最終講義があります
最終講義が終わったあと、指輪を買いに行きませんか…?あなたの好みがわからないので、今回は髪飾りとブローチにしましたが…」

誠一郎は少し照れながら言った。

「…それは何指輪でしょう?」と理緒が微笑んで聞くと「いちいち言わなくてもわかるでしょう」
誠一郎は残ったシャンパンを飲み干した。
「婚約指輪と結婚指輪です」

「…はい」

理緒が微笑んだ。

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