ワインとチーズとバレエと教授

【交差する三人】完


2024年3月18日、誠一郎は身支度を整えていた。 
理緒がプレゼントしてくれたネクタイと、カフスボタンをつけてた。
生徒の前で講義をするのはこれが最後だろう。
誠一郎が突然、

「大学を辞めようと思います」

と医局員の前で言った時は、みんな驚き、誠一郎を引き止めたが誠一郎の意思は固かった。

「この精神科の伝統と秩序を守り、皆さん頑張ってください、藤崎の代は早く終わらせた方が良いです、皆さん、最後までご迷惑をおかけいたしました」

と誠一郎は深々と頭を下げた。
医局員からは

「先生がいなくなると困ります!」

「我々はどうしたらいいのでしょう!」

という声が上がったが

「君たちなら大丈夫です、父が育てあげてきたあなたたちです、そして私もそれを引き継ぎ、全てをあなた達に享受したつもりです。私は優秀な医局員に囲まれて幸せです」

と微笑んだー

「じゃあ、行ってきます」
誠一郎は玄関で靴紐を結んだ。
理緒は「私も最終講義に行かせていただきますね」
と微笑んだ。水色のワンピースと紺色のスカートを上品に身につけている。

「えぇ、お待ちしてます。場所は分かりますか?」

「はい」

「気をつけてきてくださいね」   

「はい」
理緒は誠一郎を見送った。
< 297 / 302 >

この作品をシェア

pagetop