ワインとチーズとバレエと教授

エピローグ

大聖堂の静まり返ったチャペルのレッドカーペットの先に、純白のウェディングドレスを身にまとった美しい理緒と、黒のタキシード姿の誠一郎がいた。  

誠一郎は美しすぎる、これから妻になる理緒を見惚れて神父の言葉も耳に入らないようだ。

神父が 「新郎、藤崎誠一郎さん、あなたは新婦、理緒さんを妻とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、死がふたりを分かつまで命の続く限りこれを愛し、 敬い、貞操を守ることを誓いますか?」

美しい理緒に見惚れていた誠一郎は
神父の言葉にハッとした。

「…あ、はい、誓います…」

と静かに答えた。

神父と理緒の付添人をしていた山本医師はそんな、誠一郎に、苦笑しているように見える。

神父は、「ゴホン」と咳払いし、誠一郎のデレデレした態度を戒めたつもりだったが、誠一郎には神父の心は届かない様子だった。

「…次に、新婦、理緒さん、あなたは新郎、誠一郎さんを夫とし、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、死がふたりを分かつまで、命の続く限りこれを愛し、敬い、貞操を守ることを誓いますか?」

「…はい、誓います」

理緒は静かに答えた。

真っ白なベールからは理緒の表情がハッキリ読み取れないが、きっと、微笑んでいるだろう。

「では、新郎、指輪の交換を」

神父に促され、誠一郎は理緒が選んだエターニティーのダイヤモンドの指輪を、そっと理緒の左手の薬指にはめた。

そのか細い指は、今にも折れそうで、肌は白く透き通っていた。

理緒の指にダイヤモンドはよく栄えていた。

「では、新郎、誓のキスをー」

神父に促され、誠一郎は、そっと理緒の顔を隠す白いベールを上にあげた。理緒はいつも以上に美しく、いつも以上にうつむきながら、少し頬を赤らめていた。分かりやすい子だ。

誠一郎は、そんな理緒にそっと、口づけを交わした。

それはとても優しく
とても長く…

… 
… 


その長過ぎるキスは30秒ほど経過してもまだ、終わらない。

山本医師がクスクス笑いだし、神父はひたいに手をやり、天を仰いだ。

「…新郎、もう十分、神は愛を確かめられたと仰ってます…」

神父は、そう言って誠一郎をたしなめた。
「…あ、失礼致しました…」
と、誠一郎は名残惜しそうに、理緒のくちびるから、ようやく離れた。理緒は赤面している。

「これより二人を夫婦として認めます」

山本医師が笑いながら拍手をしていた。

「これから、披露宴ですが、身体は大丈夫でか?」

「はい」

「こんなに高いハイヒールをはいて、またあなたが疲れます」

「ウエディングドレスですから…」

15ミリの真っ白なハイヒールは、きっと理緒の身体に負担をかけるだろう。

そして、重たいウエディングドレスもさぞ疲れるだろうー

誠一郎は、理緒を抱き上げた。
神父は、もう忠告するのを諦めたようだ。
レッドカーペットの上を理緒を抱き上げて歩く誠一郎に

「あ、あの…おろして下さい…私なら大丈夫です…」

「嫌です」

「いやですって…誠一郎さん…」

理緒は困惑している。

「あなたを歩かせたくない」

「私、重いですし…」
 
「あなたは羽のように軽い」

「二人でレッドカーペットを歩く手はずになってると神父様が…」

そのように説明されているが

「私は医者ですよ?これからも無理しないと約束しましたよね?神父と私との約束、あなたはどちらを優先するのですか?」

「誠一郎さん!」

神父は、理緒を抱きかかえ、レッドカーペットを スタスタ、勝手に後にする誠一郎に"もう、勝手にやってくれ"という態度だ。

「理緒さん、これからは藤崎先生に、存分に甘えられたら良いですよ、慢性疲労症候群のリカバリーも、これなら安心ですな」

と、山本医師が笑いながら言った。

「当たり前じゃないですか。部屋に鍵をかけて、彼女を閉じ込めて置きたいくらいです」

「誠一郎さん…!」

理緒は赤面しっぱなしだが、誠一郎は、理緒を抱きかかえて離さない。

「一生、あなたを離さない」

誠一郎はそう言うと理緒の頬にキスをし、レッドカーペットを後にしたー



孤高な精神科医は傷ついたバレリーナを愛してやまない 完
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