ワインとチーズとバレエと教授


理緒に必要な用紙を渡す。

理緒がぎこちない手付きで
用紙を受け取り
頭を下げて、
診察室を出ていった。

一時間後、整形外科から
誠一郎に内線が入った。

「お世話になっております成宮です
ご紹介頂いた津川理緒さんですが
ピアノのひき過ぎによる
両手首の腱鞘炎(けんしょうえん)と
上腕骨上鞘炎(じょうわんこつじょうかえん)
でした、今、先生に
レントゲンを送らせ頂きました」

だろうと思った。

誠一郎はパソコンで
理緒の腕のレントゲン写真を診る。

見るまでもないが…

「津川さんのご様子は?」

「えっと、ですね…」

また、整形で
理緒が医者を
手こずらせているのは
すぐに見当がついた。

「ピアノをやめてくれれば
一ヶ月程度で治ると思いますが
やめたくないと…

ボルタレンを出して欲しいと
仰ってますが
それより、休む方が優先でして…

ちなみに中足疲労骨折は
ほぼ完治しております

中途半端が苦手なようで
バレエの代わりにピアノを
やったんだと思いますが

ご本人は、
痛みを認知してないようで…
早く帰らせてと言ってます…

先生、どうされます…?」

「お手数をおかけしました
津川さんを、もう一度
精神科外来に戻るよう
伝えて頂けませんか?」

誠一郎の言葉に

成宮は

「すみません…
いつも力不足で…
ありがとうございます」

成宮は、理緒をいつも
説得できない自分の力量を
恥じているようだった。

「とんでもありません
宜しくお願い致します」

誠一郎は内線を切った。

そろそろ理緒とガチで
話さなければならなさそうだー

誠一郎はそう思った。

< 60 / 302 >

この作品をシェア

pagetop