ワインとチーズとバレエと教授
一年後の2018年9月

バレエスタジオには 
当時の先輩方は
誰もいなくなった。

中級者シニアクラスは、
理緒一人だけとなった。

他の大人たちは
全員やめていった。
理由は高杉のスパルタ指導に 
ついていける大人がいなかったからだ。
理緒以外の大人は、3ヶ月もたたないまま
全員脱落した。

「だから、何度も
いってるでしょ!?
曲を聞きなさいと!!」

理緒がピルエットを
しているとき、高杉が怒鳴る。

「顔をつけなさい!」

汗だくだ。

「内側に入ってこないで!
遠くを通りなさい!
近道しないで!」

理緒はだんだん
目が回ってきた。

「ほらほら、
顔つけないから
目が回るんですよ!
いっきに360度!遅い!」

曲に遅れた…そして最後のシェネで理緒は、派手にコケた。

高杉は理緒のところまで
ゆっくり歩いて来た。

「立ちなさい」

「………」

「立ちなさい、
日本語が分からないの?」

ふらふらになった理緒が
しょぼくれて立ち上がるのを
確認して

パシンー

高杉に平手打ちを食らった。

「では、次、トンベ、パドブレ、グリッサード、
アンクロワッセ二回、最後グランジュテで、はけて…」

曲が流れる

「プレパレーションは?」

高杉が曲を止めた。

「…す、すみません」

「謝らなくていいから、
正しく、さっさとやりなさい。
2回目はないですよ」

理緒がうなずいた。

曲がもう一度流れた

「出だし遅い!
自信がないのがバレバレですよ!
グリッサードは五番になるはずでしょ?
アンクロワッセ低い!
低い低い低い!
何やってるの!?」

いつもこうだ。
高杉に怒られることはあっても
褒められることはない。

でも理緒はくらいついた。
これくらい痛くないー
こらくらいツラくないー
これくらいで泣かないー
これくらい大したことない、
これくらいー

そして、もっと上手くなるー

理緒はバレエの世界に、のめり込んでいった。

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