ワインとチーズとバレエと教授

亮二がスタジオの脇で
理緒を見ていることも気づかず
理緒は高杉のレッスンを受け続けていた。

「だから、ススしてアンオーを
しなさいと言っているでしょ?
たったそれだけです、だからパドブレしないの!

最後は自分の足で、強く立つしかありません!

今はトウシューズに
立たせてもらってる状態です!
自分の足で立つことを覚えなさい!」

理緒は汗だくだった。
ほんの少しでも気が緩むと
形がくずれそうだ。

「そのままキープ」

それだけでも理緒はツラかった。

「では、ほんの少し、
右足を上げて、アラベスクの状態に、
そうです、最後は、
自分の足で立たなければならないと
言ったでしょ?
ほんの少し、足を上げてください、
ほんの少しでいいです、
45度上げろとは言いません
20度でもいいです」


アラベスクをした理緒に
高杉は、

「9、8、7、…」と

カウントを数えた。

「6、5、4、3、2…
よろしい、5番で終わりなさい」

高杉は、理緒を見つめたー
真剣な目つきだった。
理緒が自分が何かしたのかと固まったー

「あなたは、もう、
この教室には来なくてよろしい」

え…?

理緒の表情は固まった。

「次は、セントラルバレエスタジオに
行ってください、
あなたの紹介状を書いておきました。

次からはそちらへ行って下さい。

緑川先生という、私が信頼する
素晴しい先生があたなをみてくれます」

「えっ…なんでです?
私の何が悪いんですか?
ダメならもっと頑張ります!」

高杉は

「はぁ…」

とため息をついた。

「私のレッスンに、今日まで
ついてこれたあなたを
誇りに思います」

スタジオは、しーんと静まり返った。

「バレエが好きな人もいれば
バレエをやっている自分が
好きな人もいます。
あなたはどちらでもない」

ーえ?

どういう意味…?


「早ければ3ヶ月で脱落する
私のバレエレッスンを
あなたはトウシューズまで
喰らいついてきました、

2年間、本当にお疲れ様でした。
もっと上級者を扱っている
教室があります、
そちらに移動してください」

理緒の顔が一気に青ざめた。

「いやです!
私は先生のレッスンが
好きなんです!」

理緒が始めて高杉に反論した。

「好きとか、嫌いとか
そういう問題じゃないんです。
もうここへは
来ないでください。
来週の月曜日からは
セントラルバレエスタジオで
緑川先生という方についてください。
非常に良い先生です、
その先生の指示に従ってください。
次からあなたの
講師は緑川先生です」

そう言うと、高杉は
さっさとスタジオを
去っていった。

理緒は大粒の涙を流した。
高杉に見捨てられたー

それを脇から見ていた亮二は
ハラハラしていた。

よっぽど、酷いことを
言われたのだろうか?

理緒が泣くなんて…

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