ワインとチーズとバレエと教授

思惑通り理緒が引っかかった。
誠一郎の見立てはこうだった。

理緒は負けず嫌いで妥協しないー

そこを突いて、壊してやろうと思った。

そのためには一旦、
冷静な理緒を怒らせるのが
一番、効果的と感じた。

誠一郎の挑発に乗った理緒を
まんまと怒らせることに成功させ、

あとは、こちらのペースに
巻き込んで、論破していくー

この方法が、今の理緒に
一番良いと考えた。

かなり意地悪なやり方だが
今の理緒には効いた。

誠一郎に、初めて口ごたえもして、キレてくれた。

これが本来の理緒に近いのだろうと思った。

ぷいっと顔を背けて出ていくところも
まだまだ子供らしい。

誠一郎は、これからも冷静沈着で、
すました理緒でなく、もっと内面を
出して行って欲しいと思った。

ただ、1ヶ月間休むと理緒は
きっと地獄を味わうだろうということも
誠一郎は理解していた。

今まで過集中で、いろんな予定を詰め込んできた
理緒にとって、休むということは地獄に等しい。

きっと複雑性PTSDも
一時的には悪化するだろうと考えていた。

嫌な記憶を封じ込めるために
予定をびっしり入れて
激しくバレエを踊り、
激しくピアノを弾き、
それができなくなれば
仕事に没頭していたのだ。

それらを全て失ったら理緒は
多分、一時的には壊れるだろうと
誠一郎は予測していた。

麻薬を止めれない患者のように

アルコールやギャンブルを
やめれない患者のように

離脱症に近いものを味わうだろう。

でも、それをするしか
本当に完治する術はない。

きっと、この１ヶ月は
苦しむだろうー

誠一郎は診察室から
遠くの空を見つめた。