親友に夫を奪われました
7 新しい人生
私は手頃なアパートを見つけ、新たな仕事も得られた。それは・・・・・・宝石店の店員だった。王都でも一番の高級店。豪華な店構えで店内はため息がでるほど優雅でお洒落な空間になっている。一歩足を踏み入れるとそこは別世界、あらゆる宝石がケースのなかに大事に納められ、そのケースはピカピカに磨かれて、指紋はひとつもついていない。
(流石に超一流店ね。とにかく雇ってもらえるか聞いてみよう)
ここで働きたいと申し出ると、店長が出てきて宝石販売の経験を聞かれた。正直に、アサート宝石店の経営者の妻だ、と言ったら眉をひそめられた。
「いろいろとありまして、こちらで働かせていただきたいのです」
「アサート宝石店の奥様がここで働きたい? ちょっとお待ちください。今、支配人を呼びますから」
慌てて店長が奥に引っ込み、白髪の風格のある男性と共に姿を現す。
「当店とアサート宝石店とはライバル関係にあるのですよ? 貴族の大半は当店で購入してくださいますが、アサート宝石店でしか購入しない、とおっしゃる貴族も少なくないです。敵を雇い入れるわけがないでしょう?」
「もうすぐアサート宝石店とは縁が切れますから・・・・・・」
結局、身の上話しまでするはめになった。夫と親友の裏切りで離婚するつもりであること。宝石販売の仕事が好きでこれからもしていきたいと思っていること。それらを包み隠さずお話した。
「宝石も大好きですし、お客様が喜んでくださるお顔を見ると、幸せな気分になるのです」
「そうですか。天職かもしれないですね。あなたならどんなものでも売れそうだ。トップセールスレディの誕生ですな。あなたはすぐにウィドリントン宝石店の顔になるでしょう」
私がウィドリントン宝石店で働き始めたことは貴族達の間ですぐに広まり、続々とアサート宝石店を利用していた方々が訪れた。
「私達はロレーヌからしか宝石を買わないと決めていますからね」
貴婦人方はそうおっしゃって、私の事情を敢えて聞かずにいてくださったが、離婚をするつもりであることだけは申し上げたのだった。
❁.。.:*:.。.✽..
ウィドリントン宝石店は王宮から近く、ちょうどアロイス先輩の帰り道にもなっていた。私の仕事が終わる頃に合わせて、アロイス先輩が通りに姿を現す。
「一緒に帰れるように、午前中仕事を頑張ったよ、アパートまで送るよ」
にっこりと微笑んで、嬉しそうに私の横を歩くのよ。ただ二人で夕暮れの町並みを黙って歩く。手も繋がない、ただ並んで歩くだけの時間が、人生で一番甘く感じるのは不思議だ。あっという間にアパートの前に着くと、名残惜しそうにアロイス先輩が言う。
「ゆっくりとおやすみ。良い夢を見られると良いね」
蕩けるような笑顔を浮かべ去って行く後ろ姿を見送りながら思う。今までの結婚は、アロイス先輩との新しい出発の為の必要なステップだったのかもしれないと。
今まで辛かったからこそ、今の幸せやこれからの幸せを大事にできるし、感謝もできる。そして、私は確信する。新たな人生が始まり、そこは暖かな陽だまりに溢れ、愛のある最高の場所になるということを。
もっと早くこうすれば良かった。今ではサイラに感謝すら感じる。
サイラ、夫を奪ってくれてありがとう・・・・・・私は今とても幸せよ!
私のことを真剣に心配してくれ、心から大事に思ってくれるアロイス先輩を思いながら眠りについた。
(流石に超一流店ね。とにかく雇ってもらえるか聞いてみよう)
ここで働きたいと申し出ると、店長が出てきて宝石販売の経験を聞かれた。正直に、アサート宝石店の経営者の妻だ、と言ったら眉をひそめられた。
「いろいろとありまして、こちらで働かせていただきたいのです」
「アサート宝石店の奥様がここで働きたい? ちょっとお待ちください。今、支配人を呼びますから」
慌てて店長が奥に引っ込み、白髪の風格のある男性と共に姿を現す。
「当店とアサート宝石店とはライバル関係にあるのですよ? 貴族の大半は当店で購入してくださいますが、アサート宝石店でしか購入しない、とおっしゃる貴族も少なくないです。敵を雇い入れるわけがないでしょう?」
「もうすぐアサート宝石店とは縁が切れますから・・・・・・」
結局、身の上話しまでするはめになった。夫と親友の裏切りで離婚するつもりであること。宝石販売の仕事が好きでこれからもしていきたいと思っていること。それらを包み隠さずお話した。
「宝石も大好きですし、お客様が喜んでくださるお顔を見ると、幸せな気分になるのです」
「そうですか。天職かもしれないですね。あなたならどんなものでも売れそうだ。トップセールスレディの誕生ですな。あなたはすぐにウィドリントン宝石店の顔になるでしょう」
私がウィドリントン宝石店で働き始めたことは貴族達の間ですぐに広まり、続々とアサート宝石店を利用していた方々が訪れた。
「私達はロレーヌからしか宝石を買わないと決めていますからね」
貴婦人方はそうおっしゃって、私の事情を敢えて聞かずにいてくださったが、離婚をするつもりであることだけは申し上げたのだった。
❁.。.:*:.。.✽..
ウィドリントン宝石店は王宮から近く、ちょうどアロイス先輩の帰り道にもなっていた。私の仕事が終わる頃に合わせて、アロイス先輩が通りに姿を現す。
「一緒に帰れるように、午前中仕事を頑張ったよ、アパートまで送るよ」
にっこりと微笑んで、嬉しそうに私の横を歩くのよ。ただ二人で夕暮れの町並みを黙って歩く。手も繋がない、ただ並んで歩くだけの時間が、人生で一番甘く感じるのは不思議だ。あっという間にアパートの前に着くと、名残惜しそうにアロイス先輩が言う。
「ゆっくりとおやすみ。良い夢を見られると良いね」
蕩けるような笑顔を浮かべ去って行く後ろ姿を見送りながら思う。今までの結婚は、アロイス先輩との新しい出発の為の必要なステップだったのかもしれないと。
今まで辛かったからこそ、今の幸せやこれからの幸せを大事にできるし、感謝もできる。そして、私は確信する。新たな人生が始まり、そこは暖かな陽だまりに溢れ、愛のある最高の場所になるということを。
もっと早くこうすれば良かった。今ではサイラに感謝すら感じる。
サイラ、夫を奪ってくれてありがとう・・・・・・私は今とても幸せよ!
私のことを真剣に心配してくれ、心から大事に思ってくれるアロイス先輩を思いながら眠りについた。