親友に夫を奪われました

３ もうここにはいたくない

　翌日、朝起きるとティアは私のワンピースを着ていた。しかもそれを早速イチゴジャムで汚していたのだ。サイラは私が昨日焼いておいたパンを勝手にティアに食べさせ、自分も口いっぱいに頬張っていた。

「おはよう！　ロレーヌ。今日は良いお天気ね。このジャム美味しいわ。それにこのパンどこで買ったの？　これもすごく美味しい」
「そのジャムもパンも私が作ったものよ。ところでそのワンピース･･････着ても良いなんて私は言ってないわよ」
「あら、あそこに置いたままだったから許可してくれたと思ったわ。着て欲しくないならあの引き出しから全部持っていけば良かったじゃない？　あの部屋はもう貸してもらった私のものでしょう？　だったらあの部屋にある物は、全部が私のものになると思わない？」
　呆れた言い分に腹が立つのも忘れた。

「まだあの古い服に拘っているの？　いい加減になさい。どうせ子供なんて産まれないわよ。ティアちゃんに着てもらえるだけ良いじゃない」
　姑が二階から降りてきて、私を心が狭いとなじった。朝から心がどっと疲れているのに、朝食の支度をするのは私の役目だ。

「あらパンがない。あぁ、ティアちゃんが食べちゃったのね。まぁ、サイラさんも？　そうよね、子育ては重労働ですもの、お腹がすくわよね？　わかるわ、私も子育て中には食欲が倍になったわ」
「うふふ、そうなんですよ。お母さんになるとたくさんすることがあって、体力も使うからお腹がすきます」
　二人で私をちらりと見る目つきが、バカにしているように感じるのは気のせいかしら？　

「子育てって本当に大変だと思うよ。だから、今日は母さんと羽を伸ばしてくれば良い。残念ながらロレーヌには子供ができなかったけれど、ロレーヌも僕も子供好きだから安心してほしい。ちゃんと子供の面倒は見られると思うよ」
　ガブリエルが寝室から起きて来て姑寄りの発言をした。

（子育てだけが大変なわけないじゃない？　私だっていろいろと大変なことはたくさんあるのに。それになぜ、子供ができないのが私だけのせいになるの？）　

「だったら病院に二人で行きましょうよ。今は不妊治療の技術もとても進歩していると聞くわ。本当に子供が欲しいなら、もっと前からそうするべきだったんじゃないかしら？」
　私の言葉にガブリエルも姑も目を剥いて怒った。

「子供なんてものは天からの授かり物ですよ。人間が生命を操るなんて傲慢なんです。ばちが当たりますよ」
「そうだとも。大抵の女性は特別な治療をしなくても子供が産めるんだ。ロレーヌの頑張りが足りないのじゃないかな？」
「そうよ。妊娠しやすいように努力しないといけないわよ。青魚とくるみが良いって聞いたことがあるのよ。これから毎日食べてみたら？　私もそれを頑張って食べたからティアを産むことができたのよ」
「サイラ、あなたは私が青魚が苦手なことを知っているでしょう？」
「そうだったかしら？　でも、そんなこと問題じゃないわよ。子供の為には頑張って好き嫌いをなくさないとね。青魚を食べないなんて我が儘よ」

　サイラが苦手な物はたくさんあった。例えば、トマトやニンジン、ピーマンにキノコ、貝類、エトセトラ。私が苦手な物は青魚だけだ。青魚を食べないだけで我が儘と言われるなんて不本意だった。

「そうか、それだよ！　ロレーヌ、今日から毎日青魚をお食べよ」
「あぁ、それが良いわ。早速今日から始めなさい」

（もう限界だわ。この家を出て行こう。でも、その前にどうしても確かめたいことがあるわ。それは･･････）