親友に夫を奪われました

6 ガブリエル視点

 ロレーヌが夕食の食材を買いに行くと言って外出してからずいぶんと時間が経ったのに、外が暗くなってきたにも拘わらず戻ってくる気配もない。エルネは泣き止まないし、ティアは壁に落書きを始めた。しかもそのペンは落ちにくい種類のインクを使使用したものだ。

(この間張り替えたばかりの壁紙だったのに・・・・・・まずいぞ、母さんのお気に入りの壁紙なのに・・・・・・目の玉が飛び出るほど高かったんだぞ)

「こらっ! 壁に落書きなんかしてはいけないよ。画用紙を用意したから、ここに好きな絵を描きなさい」

「うっ、うわぁーーん! やだやだ。こっちがいいもん」

(なぜ子供は壁に絵を描きたがるのだろう? それに、少しでも思い通りにならないと泣きぐずる。子供は天使なんて嘘だ。うるさくて汚くて大人をいらつかせる天才だよ。少しも寛げやしない)

 帰ってこないロレーヌに腹を立てながら、ティア達の食事を用意した。ティアとエルネには、炒り卵を作って食べさせる。僕は料理なんてできないし、とりあえず卵を食べさせておけば良いだろう。ついでにソーセージも炒めて皿に盛り付けた。

「おじちゃん、これじゃぁ、あさごはんだもん。こんなのいらないぃーー!」
 ティアは食べたい物を次々に要求しながら、炒り卵を手で掴んで僕に投げつけた。バナナやプリンにミートボールやポテト、今は家に無い物ばかりだ。火が付いたように泣きわめき手が付けられない。エルネはまだオムツがとれないし、先ほどから不快な匂いが部屋に充満していた。

 仕方なく僕がおむつを替えてやる。ひろげて見ればやはりソレで、さらにブリブリッと勢いよく水っぽい糞を放ったので、僕の顔や服にしっかりと跳ねてしまった。
「うわっ! クソガキ! なにしやがる!」
 思わず二歳の子の顔を平手でぶって、慌てて洗面所まで駆けて行く。臭くてたまらないし、シミになったらどうしてくれるんだ? 今着ている服はお気に入りの一枚だし、値も張るものなのだぞ。

(子供なんて全然可愛いと思えないよ。僕は本当は犬や猫でさえ嫌いなんだ。部屋を汚すしうるさいし、なにより自分の時間を奪われて、余計な金もかかりやがる。大嫌いさ!)

 着替えて戻ると、ティアはジュースの中に塩やら砂糖を入れて遊んでいて、テーブルや床は真っ白だ。エルネは糞まみれのオムツをそのまま床に引きずって歩き、ソファや絨毯にソレを擦りつけていた。

(ソファは特注品だし、絨毯も最高級のものだぞ。やめてくれよ、これじゃぁ僕の優雅な生活が台無しだよ。夜はロレーヌが作った美味しい夕食を食べ、好きな音楽を聴きながら本を読んで酒を飲む。これがいつものルーティンだったのに)

「食べ物で遊ぶんじゃない!」
「うっ、うわぁーーん!」

「こらっ、糞を粘土のようにこねくり回すな!」
「ふぎゃぁーー!」

 もうどうしたらいいのかわからない。食堂のテーブルも床も全てがぐちゃぐちゃなうえに、けたたましい子供の泣き声でここはまさに戦場だ。時計を見ればまだまだ母さん達は帰らない時間だし、ロレーヌの奴も戻ってこないんだ。不安になってきた僕はロレーヌの部屋に向かい、クローゼットが空になっているのに気がついた。

(家出? まさか実家に戻ったのか? なんでだよ? 無責任すぎる・・・・・・この子供達の面倒を見るのはロレーヌの役目なのに!)

  
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