悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする ~王族男子は、初恋の人を逃がさない~
 そんな「お客さん」たちの相手ばかりで疲れていても、アイナに会うと心が安らいだ。
 彼女は公爵家の生まれで本人の身分も高く、僕とは幼児の頃からの幼馴染。
 だからか、王族のジークベルト・シュナイフォードにはあまり興味がないみたいだった。

 多くのご令嬢は、僕にアピールしてくるか、遠慮しておどおどしているかのどちらかだ。
 けど、アイナは違った。
 シュナイフォード家の屋敷に来れば「お庭を散歩させてください」と言い出し、綺麗な花を見つければそっちに夢中になる。
 王族の男子そっちのけでこれだから、ちょっと変わった子なのかもしれない。
 でも、僕はそんな彼女と過ごす時間が好きだった。


 アイナと一緒が楽だなあ、とぼんやり感じながら時が経ち、僕らは7歳になっていた。
 彼女に対するふわふわとした好意に名前がついたあの日のことは、今もよく覚えている。
 その日も、僕らはラティウス邸の花畑で一緒に過ごしていた。
 ここは僕らの……正確にはアイナのお気に入りの場所だ。

「ジークベルト様、ちょっと待っててください!」

 そう言うと、アイナは緑の絨毯に座り込む。
 アイナの手元を見てみると、彼女は小さな手で花冠を作っていた。
 これは完成まで相手をしてもらえないな。そう察した僕は、隣に座ってのんびりと彼女を見守った。
 少し経って、アイナが嬉しそうに声をあげる。

「できた!」

 ようやく完成したものは、お世辞にも上手いとはいえない出来だった。
 率直に言えば、下手だ。でも、彼女は目を輝かせている。
 そんなところもアイナらしい。
 完成したそれは、自分の頭にのせるのだろう。
 そう思っていると、

「ジークベルト様!」
「うん?」
「これ、私が初めて1人で作ったやつなんです。……もらってくれますか?」

 なんて言ってきた。

「……僕にくれるのかい?」

 驚いてそう尋ねると、アイナはにこにこと笑いながら頷いた。

 初めて1人で作った花冠を、僕に。
 綺麗には出来ていないものを、王族に。

 僕の家には、一流の職人が作ったものだってたくさんある。
 当然、上等な贈り物をされたことだってある。
 それに比べたら、庭の花で作った下手な花冠に、金銭的な価値はないだろう。
 でも、アイナが僕に作ってくれたものだと思うと、何よりも輝いて見えた。

「アイナ」
「?」

 アイナが首を傾げる。

「それ、僕の頭にのせてくれるかな?」
「……はい!」
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