悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする ~王族男子は、初恋の人を逃がさない~
 公爵家の娘として生きてきた私は、この世界のことをよく知らない。
 実感として知っているのは上流階級の暮らしだけだ。
 どんな職業があって、どんな人がいて、どんな歴史や仕組みがあるのか……。
 そういった知識を増やせば世界が広がって、きっと、自分が進む道だって見えてくる。
 元々勉強が嫌いではなかった私は、すっかりのめり込んでしまっていた。

 やるぞー! と思った私は家庭教師をつけての勉強にも励み、ラティウス家にある本もどんどん読み進めていった。
 ある時、ジークベルトがシュナイフォード家の書庫に招待してくれて、最近では彼の家にも入り浸っている。

 ラティウス家の蔵書だってかなりのものだけど、シュナイフォード家はそれ以上。
 なんでも、ジークベルトの祖父にあたるアダルフレヒト様が熱心な読書家で、様々な分野の本を収集していたとか。
 その名残で、今も蔵書が増え続けているそうだ。
 ちなみに、孫の方は本の虫って感じでもない。

「……でもね、アイナ。ちゃんと寝ないと体に悪いよ」
「借りた本、早く読み切らなきゃと思って……」
「それで無理をしているようなら、貸出数を減らした方がいいかもしれないね」
「……睡眠を優先します」
「うん、是非そうして欲しい」

 ジークベルトは基本的に穏やかな男の子だ。
 でも、私が無茶をしていると思ったら、こうして釘を刺してきたりもする。
 12歳――誕生日がまだだから正確には11歳――の男の子なのに、しっかりしているなあと思う。
 睡眠を優先するという言葉を引き出して満足したのか、彼はカップを手に取り、紅茶を口にした。
 
 私たちには紅茶好きという共通点があり、食事やお茶の時間、ちょっとした休憩のときにもどちらかの好みに合わせた紅茶を飲むようにしている。
 本日のお茶は、目の前の彼がプレゼントしてくれたものだ。
 イチゴの甘い香りに誘われて口をつければ、意外にも飲み口は爽やかで。
 香りも味も私好みで、美味しい、と思った。
 視線を感じて顔をあげると、彼と目があう。
 にこにこといい笑顔をしていて、とても楽しそうだ。
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