悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする ~王族男子は、初恋の人を逃がさない~
あなたが王族じゃなくなって、きっと私は頷いた
「いらっしゃい、アイナちゃん!」
「こんにちは、ライラおばさま。本日もよろしくお願いします」
少し汚れた白いシャツ。その上にはピンクのエプロン。
年齢は40いくかどうかぐらい。
声も動作も大きめで、貴族の女性に比べ乱暴な印象も受ける。
でも、とても優しい人。
それが、この国の平民として暮らすライラおばさまだ。
私は今、とあるガラス工房を訪れていた。
机に向かっての勉強も大事だけども、座学だけでは理解できないことも多い。
なら実際に見に行けばいいと考え、半年ほど前から商店や工房に出入りしている。
最初は家族に内緒でこっそり、できれば町の人に正体は明かさずお忍びで……なんて思っていたものの、隠密行動は苦手だったために家から話を通して受け入れてもらった。
このガラス工房の旦那さんが職人組合の組合長をやっていることもあり、おばさまには特にお世話になっている。
日本の庶民だった記憶もある私としては、貴族の女性と接するより楽だったりもして……。
何度も出入りするうちに、すっかり親しくなってしまった。
「アイナちゃん、今日は何をす……る…………」
私の顔に向いていたライラおばさまの視線が、横にスライドした。
それと同時に、元気だった声がしぼんでいく。
「おばさま?」
「ア、アイナちゃ……アイナ様、そちらの……おぼっ…………。お連れの方は……」
「あっ……」
おばさまの動揺っぷりを見て、「彼」の紹介をしていないことに気が付いた。
普段は私と使用人だけでお邪魔しているけど、今日は違う。
私の隣には、どこからどう見ても身分の高い子供にしか見えない人が立っているのだ。
「おばさま、『彼』は……」
慌てて紹介しようとすると、本人が一歩前に出た。
「初めまして。私はジークベルト・シュナイフォード。アイナの婚約者です」
「アイナ様の婚約者って……たしか……。この国の……おうじ、さま……?」
正体を隠す気なんてない、堂々とした自己紹介だった。
おばさまは小刻みに震え、ジークベルトはいつも通りにこにこと微笑んでいる。
ちょっと感覚がマヒしていたけど、いきなり王族なんて連れてこられたら、そりゃあびっくりするよね……。
しかも、王族の婚約者兼公爵令嬢をちゃん付けしているところも見られたわけで。
おばさま、本当にごめんなさい。
どうしたものかと考えた私の口から最初に出た言葉は、
「正確には違いますが、かなり王子に近い人、ですね……」
だった。
こう言えば少しは気持ちが楽になるかと思ったけど、おばさまの震えは止まらなかった。
「こんにちは、ライラおばさま。本日もよろしくお願いします」
少し汚れた白いシャツ。その上にはピンクのエプロン。
年齢は40いくかどうかぐらい。
声も動作も大きめで、貴族の女性に比べ乱暴な印象も受ける。
でも、とても優しい人。
それが、この国の平民として暮らすライラおばさまだ。
私は今、とあるガラス工房を訪れていた。
机に向かっての勉強も大事だけども、座学だけでは理解できないことも多い。
なら実際に見に行けばいいと考え、半年ほど前から商店や工房に出入りしている。
最初は家族に内緒でこっそり、できれば町の人に正体は明かさずお忍びで……なんて思っていたものの、隠密行動は苦手だったために家から話を通して受け入れてもらった。
このガラス工房の旦那さんが職人組合の組合長をやっていることもあり、おばさまには特にお世話になっている。
日本の庶民だった記憶もある私としては、貴族の女性と接するより楽だったりもして……。
何度も出入りするうちに、すっかり親しくなってしまった。
「アイナちゃん、今日は何をす……る…………」
私の顔に向いていたライラおばさまの視線が、横にスライドした。
それと同時に、元気だった声がしぼんでいく。
「おばさま?」
「ア、アイナちゃ……アイナ様、そちらの……おぼっ…………。お連れの方は……」
「あっ……」
おばさまの動揺っぷりを見て、「彼」の紹介をしていないことに気が付いた。
普段は私と使用人だけでお邪魔しているけど、今日は違う。
私の隣には、どこからどう見ても身分の高い子供にしか見えない人が立っているのだ。
「おばさま、『彼』は……」
慌てて紹介しようとすると、本人が一歩前に出た。
「初めまして。私はジークベルト・シュナイフォード。アイナの婚約者です」
「アイナ様の婚約者って……たしか……。この国の……おうじ、さま……?」
正体を隠す気なんてない、堂々とした自己紹介だった。
おばさまは小刻みに震え、ジークベルトはいつも通りにこにこと微笑んでいる。
ちょっと感覚がマヒしていたけど、いきなり王族なんて連れてこられたら、そりゃあびっくりするよね……。
しかも、王族の婚約者兼公爵令嬢をちゃん付けしているところも見られたわけで。
おばさま、本当にごめんなさい。
どうしたものかと考えた私の口から最初に出た言葉は、
「正確には違いますが、かなり王子に近い人、ですね……」
だった。
こう言えば少しは気持ちが楽になるかと思ったけど、おばさまの震えは止まらなかった。