悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする ~王族男子は、初恋の人を逃がさない~
 一緒に行きたいと言い始めたのは彼でも、同行を許可したのは私。
 おばさまたちだって、私がそう望んだから平民同士のような態度を取っていた。
 このなんとも落ち着かない状態を作ったのは誰かと考えると……。私自身だ……。

 色々と申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、ここで謝り倒しても仕方がない。
 そう感じたから、公爵家のアイナ・ラティウスとして振る舞ってこの場をなんとかする方向にした。

「先日、こちらで吹きガラスを体験させていただいたのです。そのときに私が作ったコップのことですね」
「へえ、君が……。完成しているなら、僕も見てみたいな」
「でしたら……。ライラ、今もってきていただけますか?」
「は、はい。今すぐお持ちします」

 私たちの言葉を受け、おばさまが退室する。
 ぱたんと閉まるドアを見届けてから、私は小さく息をはいた。
 元々、今日は完成したコップを見て喜んでから、もっときれいに着色する方法などを教えてもらうつもりだったのだ。
 それがこうなったから、なんだか少し疲れてしまった。
 そんな私とは対照的に、ジークベルトはくつくつと笑い始める。
 一応、おばさまがいなくなるまで耐えてくれたようだ。
 なかなか収まらないから、意識して冷ややかな声を出してみる。
 
「……ジークベルト様?」
「くくっ……。ごめ……。ふふっ……。外行き用の姿に切り替えたのが……面白くて……」
「ジークベルト様は王族の方ですから。外ではあんな態度取れません」
「僕の立場を考えてくれているんだね。でも……」
「?」
「今は僕らだけなんだから、いつもみたいに『ジーク』って呼んで欲しいな」

 正確には使用人が後ろに控えているけど、そこは気にしていないようだ。
 ジークベルトは、見た目は可愛らしく、言葉も態度もやわらかい。
 今だって、優しい笑顔をこちらに向けている。
 でも何故だか、この人のお願いを聞きたくなってしまう。
 脅されているわけでも威圧されているわけでもないのに、どうしてだろう。不思議だ。
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