悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする ~王族男子は、初恋の人を逃がさない~
 彼に押し負け、ジーク、と言葉にしようとした、そのとき。
 ノックの音と一緒にライラおばさまの声が聞こえた。
 ……おばさま、なんだか早くありませんか?
 ジークベルトに入室を促され、おばさまが姿を見せる。
 その手には小さな箱。額にはうっすらと汗をかいていた。
 王族を待たせるわけにはいかないと思い、急いだのだろう。

「ジークベルト様、アイナ様。お待たせしてしまい、申し訳ございません」

 コップがどこに置いてあったのか知らないけれど、おばさまはとても早く戻ってきたと思う。
 気にしないでくださいと言いたいところだけど、王族が隣にいる今は、私からは言いにくい。
 どうしたものかと考えていると、ジークベルトが口を開いた。

「……ライラさん。急に訪問したのはこちらですから、僕のことはあまり気にしていただかなくて構いません」

 彼はゆっくりと続ける。

「それより、アイナが作ったもの、ここで見ているもの、やっていることを、僕も共有したいのです。……まずは、そうですね。その箱に入っているのは、アイナが作ったというコップですか?」

 はい、とおばさまが頷いた。
 なら開けてみようと彼が言うから、私が自分の手で箱を開け、自作のコップを取り出した。

「……」

 気泡がたくさん入ってて、色の付け方だって大雑把。
 特別な模様なんてなにも刻まれていないし、形状に関しても工夫したようには見えない。
 コップとして使うことはできるけど、それ以上でもそれ以下でもない。
 どう見たって素人が作ったものだ。
 これが店に並べられていたら、私は他の商品を手に取るだろう。
 でも……。
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