悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする ~王族男子は、初恋の人を逃がさない~
 馬車に揺られながら、考える。
 今日、アイナと一緒にこの工房へ来ることができてよかった。
 楽しかったとも感じる。
 でもきっと、そんな風に思えるのは僕だけなんだろう。

 好きな子と一緒に出かけて、同じ時を過ごしたいだけだった。
 けれど、自身がどんな気持ちであろうと僕は王族の男子。
 立場を考えれば、アイナだって僕からの「お願い」は断りにくいし、僕を受け入れることになった人は丁重に扱わねばと緊張し、最大限に気を遣う。

 僕のお願いは、命令になり得る。
 好き勝手に動けば、相手に迷惑をかける。
 アイナと一緒にいたい一心で冷静さを欠き、無茶を言ってしまった。

「これからは、もう少し自分の立場を考えるようにするよ」

 そんな思いからこう口にすると、アイナは「えっ?」と間の抜けた声を出した。
 彼女は続ける。

「えっ、と……。王族に逆らえないから言うことをきいたんじゃなくて……」
「じゃなくて……?」
「お願いする姿が、かわ…………」
「アイナ?」
「と、とにかく、私は王族じゃなくて『ジーク』のお願いをきいたつもりだったの」
「……そう、なんだね。ありがとう、アイナ。君は、昔から変わらないね」

 王族の一員で、シュナイフォード家の跡取りのジークベルト・シュナイフォードじゃなくて、僕という個人を見てくれる。
 でも本人の興味は別のことに向いているから、僕を見ているけど見ていない……みたいな、なんとももどかしい状況だ。
< 37 / 42 >

この作品をシェア

pagetop